【短編番外】謎のバレンタインプレゼント



2024-12-12 07:14:02
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 雪の降りしきるメタセコイアの丘の城の魔王の元に、サイプレス王国から使いの者がやってきました。
「魔王様。サイプレス城の王太后陛下から、贈り物にございます」
 遣いの者が魔王に跪き差し出したのは、何やら毛糸で編まれたものと、一通の手紙。
「母上か……。あの人は自分の立場が分かっているのか?私に背いた罰で軟禁されている立場が……。一体何だ?」
 手紙には、「リリー、メタセコイアは寒くないですか?そちらでは雪が降るとのこと。こんなものを作ってみました。これを穿いて暖かくして過ごしてね」と書かれていました。
 魔王は毛糸編みを広げてみました。
「……げっ」

 しばらく後、世間はバレンタインデーで賑わう時期。ローレルの町で父の手伝いをして過ごしていたライラックの元に、贈り物が届きました。
 差出人は書かれていませんが、ヒノキ城から送られたものだと印がしてありました。
 ライラックの元には他にもいくつかバレンタインの贈り物が届いていたので、ライラックはその中の一つとして、何も考えずに封を切りました。
 中から出てきたのは、手編みの毛糸のパンツ。黒地に黄色の模様が入っていて、カッコ悪く、センスの欠片もありません。
「……なんだこれ?」
 ライラックは顔をしかめました。
 差出人を確かめましたが、ヒノキ城からという印だけで、やはり何も書かれていません。
「魔王の嫌がらせかな。いや、しかし、こんな手の込んだ嫌がらせをするわけないし。でもなあ……誰だろう……」
 律儀なライラックは送り主次第ではこの贈り物を受け取り、お礼を言わなくてはと思いました。
 そこで、馬に乗ってヒノキ城にやってきました。

 ライラックは、まず、ハルジオンに訊いてみました。するとハルジオンは顔をしかめ、
「あんた、あたしがここで働いてるん知っててよう来たなあ。あんたにはもう会いたくなかったわ。何しに来たん」
「あ、いや、実はこんな贈り物が届いて。これを送ったのはハルジオンじゃないか?」
 ライラックは数年前にハルジオンに酷い振り方をして喧嘩別れしていたので、彼女に会うのは気まずかったのですが、予想通りの邪険な態度に少し怯みました。
「ふーん。あんたによう似合っとるで。あたしは知らない。じゃあね」
 ハルジオンの棒読みな台詞と半眼に、ライラックは引き下がりました。
「そうか、君じゃなかったか。ごめんよ……」

 次にライラックはスミレの元を訪れました。まさかスミレがプレゼントをくれるとは思いませんでしたが、念のため当たってみることにしました。
 スミレは赤ん坊に本を読み聞かせているところでした。
「やあ、スミレ。久しぶり。ちょっと訊きたいことがあるんだ」
「よう、ライラック。なんだ?」
「この……毛糸のパンツ、送ったのは君かい?」
 スミレはそれを受け取り、広げてみて顔をしかめました。
「いや、いくら私でもこんなもんお前にやるかよ。まず私は編み物作らないし、作ったとしてこんなダサいの作らないぞ」
「だよなあ……。実はこのヒノキ城から送られたものらしいんだが、誰が送ったか知らないか?」
「ハルジオンは?」
「知らないって。帰れって言われた……」
 スミレは二人がまだ険悪なのを知り、苦笑いをしました。
 スミレははたと思い当り、ライラックに言いました。
「この酷いセンスは人間業じゃない。レンギョウあたりが知っているんじゃないか?」
「えー?レンギョウ……?いったいなぜ?」
 ライラックは首をひねりながらもレンギョウの元に行きました。

 レンギョウはヒノキ城の中庭で雪だるまに正拳突きをしていました。
「レンギョウ。お前、俺にこの毛糸のパンツを送り付けたか?」
「あ?なんで俺がお前にプレゼントなんかしなくちゃいけねえんだよ。気持ち悪い」
「そうだよなあ……。このパンツに見覚えはないか?」
 レンギョウはパンツを広げて見せ、顔をしかめました。
「……知らねえ。なんだこのパンツ」
 そして、レンギョウは「このセンスの悪さはカブトムシだな!間違いねえ」と、フロックスの元をあたることを提案しました。

 フロックスはヒノキ城の食堂でハニージンジャードリンクを飲んでいました。
「やっぱ冬はホットに限るぜ。ん?なんだ?」
「フロックス。これは君のパンツじゃないか?」
 フロックスはそれを見てギャハハハハと派手に笑いました。
「なんだそれお前恥ずかしーーー!!誰のパンツよ?」
「じつは、かくかくしかじか……」
 フロックスは笑いすぎてハニージンジャードリンクを気管に詰まらせ激しくむせて咳き込みました。
「げーっほげほ!!マジで!!げほげほ!!俺は知らねー。げっほげほ!!アナナスにでも当たってみろよ」
「えええーーーー?!」
 ライラックは頭を抱えました。ここまで探して手がかりなしとは……。
 ライラックはヒノキ城の役人に頼んでサイプレス城に赴きました。

 ヒノキ城ではライラックに声を掛けられた者たちが集まってげらげら笑っていました。
「あいつあれ貰ってどうするつもりなんだろうな」
 レンギョウが笑いました。
「今サイプレス城に行ってるぜ。あいつ、誰かわからないけどお礼をしなくちゃって言ってたぜ」
 フロックスが涙を流しながら笑い転げて言いました。
「あいつ律儀だから、誰かわかるまで探し続けるぜ。諦めて貰っとけよ!!」
 スミレが腹を抱えて笑いました。
「あーいい気味やわ、ほんま面白いわ」
 ハルジオンがスミレに寄りかかって笑います。
「あいつ最終的にどうする気だろう?」
 アリウムが煙草に火をつけました。
 アナナスはサイプレス城にはいませんでした。このヒノキ城で、ライラックの動向を観察していました。
「そろそろネタばらししますか?」
 毛糸のパンツは、魔王が母君から送られた物。魔王はそのセンスの悪い毛糸のパンツを、ライラックに押し付けて知らんふりするつもりでした。
 しかしライラックが意外と律義で粘り強いので、みんなは踊らされるライラックの様子がおかしくて仕方ありません。
「ギリギリまであいつの反応見よう」
 魔王は不敵に笑みました。

 サイプレス城にアナナスがいないと知ったライラックが再びヒノキ城に帰ってくると、大広間には親しい者たちが勢ぞろいして雑談していました。
 ライラックはそこにアナナスと魔王の姿を認めたので、声を掛けました。
「ここにいたか。なあ、済まない。この毛糸のパンツを俺に送った者を捜しているんだが心当たりないか?」
 魔王もアナナスも首をかしげました。
「私が知るわけないだろう」
「俺も知りませんね」
 ライラックは頭を抱えてしゃがみこみました。
「もうーーーーーーー!!!誰なんだよーーーーー!!!」
 そして、ライラックははたと気づきました。皆が勢ぞろいしている。おかしい。やっぱり犯人はこの中に?こんな意地悪ないたずらをして楽しむのは……。魔王しかいない!
「魔王だろ!魔王が俺にこれを送り付けたんだな?」
「送り付けた?失礼な奴だな。誰かが心を込めて編んだかもしれないものを、送り付けたとは失礼じゃないか?貰っておけばいいじゃないか。可愛いぞ」
 ライラックは確信しました。そして反論しました。
「可愛いと思うなら魔王がこれを貰ってくれ」
「私は……いいよ。お前が貰ったものだろう?」
「やっぱり魔王だなーーーーーー?!俺はこんなのいらない!!やっぱりお前が仕組んだいたずらだろう!!」
 ライラック以外の一同はギャハハハハハと爆笑しました。
 スミレがネタばらししました。
「それは魔王の母君のお手製の毛糸のパンツだ。ハイセンスでお前によく似合うぞ」
「い・ら・ねえええええええええ!!!」
 ライラックは力の限り叫びました。

 おしまい。

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