第十話 奇跡使い対言霊使いナンバーワン決定戦



2025-02-06 19:47:12
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 或る日、テンパランスのもとに、「奇跡使い対言霊使いナンバーワン決定戦」の参加募集の封書が届いた。未だ嘗てこんな内容の案内書が届いたことはない。内容を確かめてみると、国営のテレビ局が主催するものだという。頭の悪そうな民放のテレビ局ならやりそうなことだが、国営放送がこんなことをやりだすとは、正気の沙汰とは思えなかった。一体奇跡使いと言霊使いを戦わせてどうするつもりなのだろう。
「どうしようかしら」
 テンパランスが考えていると、テンパランスの部屋を掃除していたイオナが話しかけてきた。
「どうかしたんですか?」
「いえね、こんな案内が届いたの。何かの詐欺かしら。それとも本気で…?」
 イオナが案内に一通り目を通すと、意外な返答が返ってきた。
「わあ、面白そうじゃないですか!ブルギス国一を決める戦いですか!?すごく楽しそうですね!」
 テンパランスは白い目をして呆れた。
「ボクシングやプロレスじゃあるまいし、奇跡と言霊をぶつけ合ったら、間違いなく死人が出るわよ。危険すぎるわ」
「それもそうですよね…言霊も奇跡も、人の命を奪う力はありますからね。怖い……」
 国の金を使って人の殺し合いをテレビで見せるなんて、国営放送の上層部は何を考えているのだろう。この世界のテレビとは、モノクロでアナログでローテクな時代であるのだが、いくらモノクロといえど、人が死ぬ瞬間を好んで見たがる視聴者などいるだろうか。
「国営放送は何かアナウンスしているのかしら。テレビ付けてみましょう」
 テンパランスとイオナが居間に移動してテレビをつけると、国営放送はクソ真面目なニュースしかやっていなかった。待てど暮らせど例の件はアナウンスされない。
 そこへ、奇跡の小瓶作りをしていたアルシャインとニコが休憩しにやってきた。
「テンパランス様。珍しいですね、こんな時間にテレビをご覧になるなんて。何か気になるニュースでもありましたか?」
「ああ、貴方達。いえね、こんな案内が届いて……」
 テンパランスは案内状を二人に見せた。
「こ、国営放送の企画なんですかこれ?正気の沙汰とは思えませんね」
「でしょう?そして、賞金がまた馬鹿げてるの」

「賞金、金塊百個!!??」
 一方その頃、ミルドレッドの屋敷にも同じ案内状が届いた。ミルドレッドの弟子たちは賞金に飛びついた。
「やりましょうミルドレッド様!!ミルドレッド様は世界最強の言霊使いですし、ケフィという優秀な弟子も加わったウチなら絶対優勝ですよ!!」
 ニナが鼻息も荒くミルドレッドに強く推した。エラは口元に不敵な笑みを浮かべた。
「いい力試しになりそうね。ま、楽勝よね」
 一方ミルドレッドは冷静だった。
「怪しいわね。詐欺かなんかじゃない?ちょっと国営放送のテレビ付けてみましょうよ」
 ミルドレッドもまたテレビをチェックした。しかし、一向にテレビはこの関係の話をしない。
 ケフィとベルは言霊で人が死ぬことに恐怖心を抱いている。こんな大会などやったら死人が続出するだろうことは簡単に予想がついた。
「絶対危ないですよ、これ。抗議しましょうよ。こんなことやっちゃいけない」
 ケフィがミルドレッドに進言すると、ミルドレッドは電話をかけた。
「ああ、ガイ?今大丈夫?あのね、新聞社に掛け合って裏どりしてほしいの。うん、なんか怪しい案内が届いて。詳しいことはこっち来て。見せるから。うん、お願い」
 一体ガイは何者なのだろう。ケフィはてっきりミルドレッドがテレビ局に電話するものと思っていたのに、ガイにそんな電話をしたことで、ガイに対して一層疑念が湧いた。
「もし本当だったらどうするんですか?」
 ケフィの問いに、ミルドレッドは、
「本当だったら、やるわよ、勿論。うちなら優勝できるわ」
 と、あっけらかんに答えた後、憎々しげな眼付きで窓の外を睨みつけた。
「それに、奇跡使いと遣り合えるなら、あのブスをコテンパンにやっつける口実になるしね」

 数日後、ガイは新聞社から手に入れた情報を伝えにミルドレッドの屋敷にやってきた。
「裏が取れたぜ。マジだ。この国は、国家規模でマジで奇跡使いと言霊使いを戦わせるつもりらしい」
「ふふ~ん、いいじゃない。やってやろうじゃないの。あのくそブス、ギッタンギッタンにやっつけてやるわ」
 エラとニナが歓声をあげて飛び上がる一方で、ケフィだけが震えていた。
「やめましょうよこんな危ないこと……」
 その翌日、ガイが裏どり依頼をした新聞社が朝刊でこのニュースを取り上げた。するとたちまち情報は拡散し、他の新聞社、民放のテレビ局が挙ってこのニュースを報じた。
 世論は真っ二つに割れた。信心深い人々は皆奇跡使いか言霊使いの力に与かって生活しているのだ。お世話になっている能力者がこんな茶番で無駄死にしては困る。一方、争い事が好きな者たちは、いい見物だとこのイベントを歓迎した。
 テレビでやっていいことではない。いやいや、いい見物だ、もっとやれ。世間はこのニュースで持ちきりだった。
 さんざん民間でこの情報が沸いた頃にようやく国営放送はこのニュースを大々的に公開した。
 内容はこうだ。

・第一次予選、第二次予選、決勝と、三試合あり、いずれも各事務所対抗で戦う。人数が多い事務所は5~6人ごとのチームを作る。
・いずれの試合も、番組が用意したモンスターと戦い、勝ち残ったチームが次の試合に進む。
・優勝賞金は金塊百個。上位入賞チームは国の研究機関で能力研究に専念することができる。

「国営放送は、あくまでも人の殺し合いじゃなくて、モンスター討伐の見世物にするつもりなんですね」
「どちらにせよ死人が出るのは避けられないわね」
 テンパランス達はテレビの内容にあきれた様子を見せた。
「でも、殺し合いじゃなかっただけでもよかったですね。もしかしたらケフィに会えるかもしれませんよ。ケフィ、元気してるかしら」
「ケフィ?」
 イオナの言葉に、知らない人物の名が出たことに、ニコが反応した。
「ああ、前にこの事務所にいた、元テンパランス様の弟子よ。ニコ、貴方と同い年のはずだわ」
 ニコはいまいちよくわからない様子だったが、テンパランスとアルシャインはケフィを懐かしんだ。
「そうだね、きっとケフィも出るはずだね。元気にしてるかなあ」
「ケフィには会えるでしょうね。あの女なら、こう言いう悪趣味なイベント絶対出るはずだから」
 テンパランスの機嫌が悪くなったことに、アルシャインとイオナは、「しまった!」と顔を見合わせた。
 しかしイオナは、ふと、どうしてテンパランスとミルドレッドの仲が悪いのか、疑問に思った。
「あの、ずっと気になってたんですけど、どうしてテンパランス様とミルドレッドさんがいつも敵対しているのか、訊いてもいいですか?」
 イオナがおずおずとテンパランスの顔色を窺いながら訊くと、テンパランスは、「ああ」と、意外にもあまり気にしていない風で話し出した。
「そういえばまだ誰にも話したことがなかったわね。いいわ、教えてあげる。ちょっと長い話だけど」

 今から10年ほど前の話だ。テンパランスは当時、言霊使いになるべく、とある言霊使いの下へ入門した。しかし、いくら言霊を勉強しても一向に言霊が使えず、おかしな力ばかり暴発して、うだつの上がらなかったテンパランスは、同門のミルドレッドたちグループに虐められる日々を送っていた。
 いつか見返してやろう。そう皆を呪う日々を送っていたところ、或る夜夢の中の何もない空間で、声だけが響き渡った。
「お前はいくら言霊の修行をしても言霊が使えるようにはならない。お前は奇跡使いだ。奇跡の使い方を教えて進ぜよう。その力をもってお前を虐げる者たちへ報復するがいい」
 真夜中に目を覚ましたテンパランスは、独り道場で奇跡の力を使ってみた。するとどうだろう。今まで暴発していた不思議な力が、掌の上で自由自在に転がるではないか。
 翌日、修行を辞めることを師匠に告げると、またミルドレッド達がやんやとテンパランスをからかった。するとテンパランスは、重力の神を呼びだし、ミルドレッド達を床に天井に壁に自由自在に操って叩き付け、見事積年の恨みを晴らし、道場を後にしたという。
 それからテンパランスは数年間とある奇跡使いの下に入門し、修行を積んだ後、独立したという。
 それからというもの、ミルドレッドも努力して世界一と呼ばれるようになり、テンパランスも世界で唯一の女性奇跡使いとして有名になり、世間はミルドレッドが最強か、テンパランスが最強か、しきりに二人を戦わせたがった。
 次第に二人もお互いを強く意識するようになり、今に至るのである。

 こんな長い話を、ニコが大人しく聞いているはずもなく、彼はテレビのチャンネルをカチャカチャ変えて、つまらなそうにテレビを見ていた。
 話を聞いていたイオナとアルシャインは、納得がいったようである。初めて聞くテンパランスの生い立ちに、二人はため息をついた。
「そんなことがあったんですね。だからあの人はやたらとテンパランス様に食って掛かるんですね」
「きっとこんなニュースが話題になってる陰では、私とあの女を戦わせたがってる連中もいるんでしょうね」
 イオナは自分に奇跡が使えるわけでもないのに、なぜだか闘志が湧いてきた。
「それじゃあ、ますますこの大会に出ない理由はないですよ!!ミルドレッドさんに、テンパランス様が最強だって、見せつけてやらなくちゃ!それに、チーム戦でしょう?ウチにはニコもいるもの、絶対楽勝ですよ!!」
 昔のことを思い出す羽目になったテンパランスは、過去の怒りがフラッシュバックして、なぜだか無性にミルドレッドをやっつけてやりたくなった。
「そうね。あの女に目にもの見せてやりましょう。ニコもいるし、きっと勝てるわ」
 アルシャインだけが慌てていた。そういえば、こんな話をする前は、このイベントに否定的だったはずではなかったのか。
「え?出るんですか?死ぬかもしれないから出ないっていう話では……?」
 テンパランスは怒りに駆られて我を見失っていた。
「出るわよ、死にはしないわよ、私たちは奇跡使いよ。どうとでもなるわ」
 表情を変えないまま「ふふふふふ」と不敵に笑い始めたテンパランスに、アルシャインは悪魔の顔を見た思いがした。

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