いよいよ第一次予選の日がやってきた。第一次予選は地区予選だった。国営放送はブルギス国を五つの地区に区分けし、各地区で一番大きな運動施設でモンスターと戦わせるという。
テンパランスとミルドレッドのいる第一区では、腕自慢の能力者たちが挙って参加した。
競技場のグラウンドに集められた参加者たちは、大会役員から説明を受けた。しきりにハウリングする拡声器からの声ではいまいちよく聞き取れなかったが、数チームずつランダムに選出してグループを作り、グループごとに一体ずつモンスターと戦い、戦闘不能者の少なかったチームが勝ちあがるというシステムだった。
戦うモンスターの名が公表されると、能力者たちの一部にどよめきが起こった。
「あ、アディペムンドゥですって……?」
テンパランスの表情が凍り付き、口元を覆って慄くのを見て、アルシャインは驚いた。
「テンパランス様、ご存じなんですか?」
「怠惰の古霊、ピグリティウスの眷属よ。アディペムンドゥが司る言霊で呪いをかける言霊使いもいるわ。古霊に次ぐ高次の存在よ。面白半分に闘っていいモンスターじゃない」
その話を理解しているわけではないようだが、ニコもまた、神々が騒ぐのを聞いて、落ち着かない様子だった。
「すごく怖い奴がいる。テンパランス様、やばいよ。神様達が騒いでる」
「そ、そんなものと戦うなんて……!」
奇跡使いたちにはピンとくるものが少なかったようだが、言霊使いたちは事の重大さがわかる分、大ブーイングが起きた。
「腕に自信のない方はこの時点で棄権していただいて結構です」
そうアナウンスがされると、プライドを刺激された人々は急に大人しくなった。この時点でおめおめと帰っては恥ずかしくて仕事が続けられない。
各団体の代表者が抽選会に参加すると、テンパランス達は三組目の順番だった。
順番待ちの参加者たちは競技場外の広場で待機させられる。
「頑張って下さいね皆さん。私、上から応援してます」
そう言ってイオナは観客席に駆けていった。
「大丈夫かしら……。アディペムンドゥなんて、私、本でしか見たことがないわ」
いつも冷静で、どんなモンスターと対峙しても強い姿勢を崩さないテンパランスが、珍しく怯えている。アルシャインは、その姿に、普段あまり意識しないようにしていた女性らしさを感じ、不謹慎ながらきゅっと胸が締め付けられた。
(テンパランス様も一人の女性だ。心細くなることもあるだろう。ここは僕がしっかりしなくては)
アルシャインは左手を差し出しテンパランスの右手をぎゅっと握った。
「大丈夫です、テンパランス様。あなたは僕が守ります」
不意に真剣な強い眼差しに見つめられ、大きな逞しい手に握られ、テンパランスの心がぐらりと揺れた。
(いけない!)
テンパランスは反射的に目を逸らし、握られた手を振り払った。
「ええ、貴方は援護に回ってください。ニコと私が主力となって前線で戦います」
冷静さを装ってそう命令したが、テンパランスの心は早鐘を打っていた。
(落ち着きなさい、落ち着くのよテンパランス!)
彼女は必死に自分の心を叱責して落ち着かせようとした。心がぐらついたのが監視の神に悟られでもしたら、戦う前から戦闘不能になってしまう。
「そうですね、ニコもいるんですから、負けませんよ、僕達は」
アルシャインは、テンパランスのいつも通りの冷たい反応にホッとしつつも若干の寂しさを感じながら、気分を変えようとニコの肩を掴んだ。
と、そこへ、ミルドレッド達が現れた。
「あらあら、たった三人で戦うの?負けちゃうんじゃない?」
ミルドレッドの挑戦的な声に、テンパランス達が振り返ると、見慣れない長い黒髪の人物がいる。一瞬女性かと思ったが、よく見れば髪の伸びたケフィだ。
「テンパランス様、アルシャインさん、お久しぶりです!」
「ケフィ!久しぶり!元気だったかい?」
アルシャインはケフィの元気な様子に喜んだ。お互いに簡単に近況を話し合う。
ミルドレッドは大きな胸をテンパランスに押し付けて挑発してきた。
「ケフィはすごく優秀な子よ~?いい子紹介してくれてありがとうね、感謝だわ。これでウチの優勝は確実ね」
テンパランスも負けずに肘でミルドレッドの胸を押し返す。
「あら、代わりにうちにはとびっきりの新人が入ったのよ。彼にかかっては楽勝ね」
「ふーん、あの子が新人?」
テンパランスはニコに、名乗るように促した。
「僕、ニコです。よろしくお願いします」
どこかぎこちなさを感じる自己紹介に、ミルドレッドは鼻で笑った。
「馬鹿っぽそうな子ねえ。ま、精々足掻きなさいな。私達はは次だから。じゃあね」
アナウンスによると、第一試合が決したようである。二組目のミルドレッド達の出番だ。
「精々死なないことね。死んでくれたほうがありがたいけど」
テンパランスも負けじと皮肉で送り出した。
「あの……ミルドレッド様。私は……?」
ベルがおずおずとミルドレッドに指示を仰ぐと、ミルドレッドは、「貴女も戦いなさい」と命じた。
「え?私、言霊なんか使えませんよ?!」
「全く使えないわけじゃないでしょ?できないんじゃない、やるの。やりなさい」
ベルは自信なさげに俯いた。そのウジウジした様子にイライラしたエラが、
「やろうと思えばできるんでしょう?!」
と怒鳴ると、ベルは、「少しは……」と、また自信なさげに呟いた。ニナはベルが言霊を使ったところを見たことがない。
「ベルに何ができるっていうんですか?絶対足手まといですよ?」
すると、ミルドレッドが、「ニナは黙ってなさい」と厳しく叱った。
「ベル、アディペムンドゥがどんな存在か知ってるでしょう?甘ったれてる場合じゃないのよ、貴女もやらないと私達が死ぬわ。後方支援でいいからやりなさい」
「はい……」
ベルはまた弱々しく返事した。
グラウンドに入って、ミルドレッド達は驚愕した。本当に伝説の中にしかいないはずのアディペムンドゥが目の前に立ちはだかっている。
ヒキガエルのように丸々太った、見上げるほどの巨体で四つん這いの化物。周囲には腐った卵のような異臭が漂っている。
プァーッとサイレンが鳴るとそれが試合開始の合図だった。アディペムンドゥが太った体の割には素早い動きで突進してくる!
「風の神!」
「重力の神!」
共闘している奇跡使いの先制攻撃にも怯まず、アディペムンドゥは恐怖に慄いて動けなかった奇跡使いを捕まえ、地面に叩きつけ、頭から喰らった。
「うわあああ!」
「ヤバい、喰われるぞ!」
共闘していたグループが何組か撤退した。仲間を喰われたグループはありったけの奇跡の力をぶつけたが、あまり効果がない。
「陽の光に大地の奥に、竈の中におわします、炎を司りし古霊・フランマよ!忌まわしき罪人を火炙りにし給え!黒焦げになりなさい!」
ミルドレッドが放った炎の言霊がアディペムンドゥを覆った。化物は苦しみのたうち回ると、炎に焼かれながら尚も凶暴に暴れまわった。
エラがそれに追撃する。
「愛の古霊アマーレの双子の古霊、憎しみの古霊オディウムよ、彼の醜悪な敵の命の鼓動を止めたまえ。心の臓を握りつぶし、今こそ彼奴に憎しみの鉄槌を!」
しかしアディペムンドゥはケロッとしている。
「エラ、アディペムンドゥは普通の生き物じゃないわ、古霊よ。それじゃダメ」
ミルドレッドは違う様式で言霊を練り上げた。
「憎しみの古霊オディウムよ、彼の古霊の愛、信仰、崇拝を憎め!集めた信仰心よ、彼の古霊に牙を向き給え!!」
実はミルドレッドですら、古霊に言霊をぶつけるのは初めてのことである。だから、このオリジナルの言霊が無事発動するかどうかは賭けだった。即席で絞り出した言霊だったが、オディウムは聞き届けてくれるだろうか。
「ム……グググ……ぐぎゃおおおおおお!!!!!」
発動まで数秒待ったが、やがてアディペムンドゥは断末魔の叫び声をあげて崩壊した。グズグズ形が崩れていったそばから、蒸発するように天へと昇って行った。
勝敗は全員無傷で、且つ、止めを刺したミルドレッド達に軍配が上がった。
「やりましたねミルドレッド様!!」
「さすがですミルドレッド様!!そんな言霊があるなんて!!」
弟子たちはミルドレッドに尊敬の眼差しを向けたが、ミルドレッドは内心冷や汗をかいていた。オリジナルの言霊は一歩間違えれば盛大に失敗する。オディウムが願いを聞き届けてくれて心の底から助かったと胸を撫で下ろした。
「貴方達も教えたとおりにやるだけじゃなくて、時と場合によって言霊を考えなさい。それができて初めて一人前の言霊使いよ」
「はい!」
エラとニナは威勢良く返事したが、ケフィとベルはまた違った気持ちでその言葉を受け止めた。
『時と場合によって言霊を考える』。それは、醜い人殺しだけが、他人を呪うだけが言霊じゃない。使いようによっては新しい言霊もあるのだ。そう、ケフィは思った。一方ベルは、また違うことを考えていたのだが……。
「ハァイ、くそブス女。余裕で勝ったわよあたしたち。次はあんたたちね。精々死なないように気をつけなさい。死んでくれたほうが有難いけど」
ミルドレッド達は出番待ちをしていたテンパランス達にそう声をかけた。
「あら、逃げなかったのね、バカ女。残念だわ」
次はテンパランス達の出番である。
テンパランス達のグループも、その怪物に驚きが隠せなかった。
すでに二組がこの怪物を始末したなどとは、にわかには信じられない。
「ニコ、やれそう?」
テンパランスがニコに声をかけた。
「神様は倒せるって言ってる」
「そう、じゃあアルシャイン!援護をお願い!」
「解りました!」
怯んでばかりもいられない。他の能力者たちは一斉に術を浴びせかけた。
「火の神!!」
「毒の神!!」
「フランマよ、燃やし尽くせ!!」
「ペトラムよ、石飛礫を!!」
しかし他の能力者たちの術では大したダメージを与えられなかった。
「火、石、毒、氷はダメか……」
その時、他の奇跡使いが雷の神を呼んだ。
バリバリっと、会場の照明や電線から電撃が飛んでいき、アディペムンドゥは怯んだようだった。
「は!電撃は効くのね!!行くわよ、水の神!!」
テンパランスは水の神を呼び、アディペムンドゥに浴びせかけた。
「ニコ、電気の神を呼んで!」
「はい!電気の神!」
すると、競技場周囲に張り巡らされている電線や電気器具がアディペムンドゥめがけて放電し、ズドンという轟音と共に光が弾けた。
こんな強烈な電撃を食らったらひとたまりもないだろう。しかしアディペムンドゥはまだ生きていた。
「しめた!まだ我々にも勝機はあるぞ!!」
他の能力者たちが一斉に術を浴びせかけた。アディペムンドゥはしばらく食らったままだったが、一瞬こちらの手が止まった隙に、猛烈に怒り狂って大暴れしだした。
何名かの能力者たちが跳ね飛ばされ、致命傷を負って戦闘不能となった。
「あれを止めなければ…ニコ!重力の神よ!!」
「じゅうりょくのかみ!!」
ニコの強烈な奇跡は、会場中の重力を操作した。あまりの重力に、誰もが地面に縛り付けられた。
「くっ……!き、金属の神!!」
地面に這いつくばったまま、テンパランスがアディペムンドゥに金属の飛礫を浴びせかけると、アディペムンドゥは細切れに切り刻まれた。
「ニコ、ニコ、もういいわ」
ニコが術を解くと、アディペムンドゥは煙のように消えた。
勝負は生き残った能力者チームだった。勿論テンパランス達がポイントとしてはリードしていた。
第二試合、第三試合と試合が進み、上位入賞チームが絞られていった。
こうして上位入賞チーム五組が、二次予選に進出した。
二次予選は一週間後。今度は全国から上位チームが集まってくる。
一同は冷や汗を流しながら気を引き締めるのであった。
テンパランスとミルドレッドのいる第一区では、腕自慢の能力者たちが挙って参加した。
競技場のグラウンドに集められた参加者たちは、大会役員から説明を受けた。しきりにハウリングする拡声器からの声ではいまいちよく聞き取れなかったが、数チームずつランダムに選出してグループを作り、グループごとに一体ずつモンスターと戦い、戦闘不能者の少なかったチームが勝ちあがるというシステムだった。
戦うモンスターの名が公表されると、能力者たちの一部にどよめきが起こった。
「あ、アディペムンドゥですって……?」
テンパランスの表情が凍り付き、口元を覆って慄くのを見て、アルシャインは驚いた。
「テンパランス様、ご存じなんですか?」
「怠惰の古霊、ピグリティウスの眷属よ。アディペムンドゥが司る言霊で呪いをかける言霊使いもいるわ。古霊に次ぐ高次の存在よ。面白半分に闘っていいモンスターじゃない」
その話を理解しているわけではないようだが、ニコもまた、神々が騒ぐのを聞いて、落ち着かない様子だった。
「すごく怖い奴がいる。テンパランス様、やばいよ。神様達が騒いでる」
「そ、そんなものと戦うなんて……!」
奇跡使いたちにはピンとくるものが少なかったようだが、言霊使いたちは事の重大さがわかる分、大ブーイングが起きた。
「腕に自信のない方はこの時点で棄権していただいて結構です」
そうアナウンスがされると、プライドを刺激された人々は急に大人しくなった。この時点でおめおめと帰っては恥ずかしくて仕事が続けられない。
各団体の代表者が抽選会に参加すると、テンパランス達は三組目の順番だった。
順番待ちの参加者たちは競技場外の広場で待機させられる。
「頑張って下さいね皆さん。私、上から応援してます」
そう言ってイオナは観客席に駆けていった。
「大丈夫かしら……。アディペムンドゥなんて、私、本でしか見たことがないわ」
いつも冷静で、どんなモンスターと対峙しても強い姿勢を崩さないテンパランスが、珍しく怯えている。アルシャインは、その姿に、普段あまり意識しないようにしていた女性らしさを感じ、不謹慎ながらきゅっと胸が締め付けられた。
(テンパランス様も一人の女性だ。心細くなることもあるだろう。ここは僕がしっかりしなくては)
アルシャインは左手を差し出しテンパランスの右手をぎゅっと握った。
「大丈夫です、テンパランス様。あなたは僕が守ります」
不意に真剣な強い眼差しに見つめられ、大きな逞しい手に握られ、テンパランスの心がぐらりと揺れた。
(いけない!)
テンパランスは反射的に目を逸らし、握られた手を振り払った。
「ええ、貴方は援護に回ってください。ニコと私が主力となって前線で戦います」
冷静さを装ってそう命令したが、テンパランスの心は早鐘を打っていた。
(落ち着きなさい、落ち着くのよテンパランス!)
彼女は必死に自分の心を叱責して落ち着かせようとした。心がぐらついたのが監視の神に悟られでもしたら、戦う前から戦闘不能になってしまう。
「そうですね、ニコもいるんですから、負けませんよ、僕達は」
アルシャインは、テンパランスのいつも通りの冷たい反応にホッとしつつも若干の寂しさを感じながら、気分を変えようとニコの肩を掴んだ。
と、そこへ、ミルドレッド達が現れた。
「あらあら、たった三人で戦うの?負けちゃうんじゃない?」
ミルドレッドの挑戦的な声に、テンパランス達が振り返ると、見慣れない長い黒髪の人物がいる。一瞬女性かと思ったが、よく見れば髪の伸びたケフィだ。
「テンパランス様、アルシャインさん、お久しぶりです!」
「ケフィ!久しぶり!元気だったかい?」
アルシャインはケフィの元気な様子に喜んだ。お互いに簡単に近況を話し合う。
ミルドレッドは大きな胸をテンパランスに押し付けて挑発してきた。
「ケフィはすごく優秀な子よ~?いい子紹介してくれてありがとうね、感謝だわ。これでウチの優勝は確実ね」
テンパランスも負けずに肘でミルドレッドの胸を押し返す。
「あら、代わりにうちにはとびっきりの新人が入ったのよ。彼にかかっては楽勝ね」
「ふーん、あの子が新人?」
テンパランスはニコに、名乗るように促した。
「僕、ニコです。よろしくお願いします」
どこかぎこちなさを感じる自己紹介に、ミルドレッドは鼻で笑った。
「馬鹿っぽそうな子ねえ。ま、精々足掻きなさいな。私達はは次だから。じゃあね」
アナウンスによると、第一試合が決したようである。二組目のミルドレッド達の出番だ。
「精々死なないことね。死んでくれたほうがありがたいけど」
テンパランスも負けじと皮肉で送り出した。
「あの……ミルドレッド様。私は……?」
ベルがおずおずとミルドレッドに指示を仰ぐと、ミルドレッドは、「貴女も戦いなさい」と命じた。
「え?私、言霊なんか使えませんよ?!」
「全く使えないわけじゃないでしょ?できないんじゃない、やるの。やりなさい」
ベルは自信なさげに俯いた。そのウジウジした様子にイライラしたエラが、
「やろうと思えばできるんでしょう?!」
と怒鳴ると、ベルは、「少しは……」と、また自信なさげに呟いた。ニナはベルが言霊を使ったところを見たことがない。
「ベルに何ができるっていうんですか?絶対足手まといですよ?」
すると、ミルドレッドが、「ニナは黙ってなさい」と厳しく叱った。
「ベル、アディペムンドゥがどんな存在か知ってるでしょう?甘ったれてる場合じゃないのよ、貴女もやらないと私達が死ぬわ。後方支援でいいからやりなさい」
「はい……」
ベルはまた弱々しく返事した。
グラウンドに入って、ミルドレッド達は驚愕した。本当に伝説の中にしかいないはずのアディペムンドゥが目の前に立ちはだかっている。
ヒキガエルのように丸々太った、見上げるほどの巨体で四つん這いの化物。周囲には腐った卵のような異臭が漂っている。
プァーッとサイレンが鳴るとそれが試合開始の合図だった。アディペムンドゥが太った体の割には素早い動きで突進してくる!
「風の神!」
「重力の神!」
共闘している奇跡使いの先制攻撃にも怯まず、アディペムンドゥは恐怖に慄いて動けなかった奇跡使いを捕まえ、地面に叩きつけ、頭から喰らった。
「うわあああ!」
「ヤバい、喰われるぞ!」
共闘していたグループが何組か撤退した。仲間を喰われたグループはありったけの奇跡の力をぶつけたが、あまり効果がない。
「陽の光に大地の奥に、竈の中におわします、炎を司りし古霊・フランマよ!忌まわしき罪人を火炙りにし給え!黒焦げになりなさい!」
ミルドレッドが放った炎の言霊がアディペムンドゥを覆った。化物は苦しみのたうち回ると、炎に焼かれながら尚も凶暴に暴れまわった。
エラがそれに追撃する。
「愛の古霊アマーレの双子の古霊、憎しみの古霊オディウムよ、彼の醜悪な敵の命の鼓動を止めたまえ。心の臓を握りつぶし、今こそ彼奴に憎しみの鉄槌を!」
しかしアディペムンドゥはケロッとしている。
「エラ、アディペムンドゥは普通の生き物じゃないわ、古霊よ。それじゃダメ」
ミルドレッドは違う様式で言霊を練り上げた。
「憎しみの古霊オディウムよ、彼の古霊の愛、信仰、崇拝を憎め!集めた信仰心よ、彼の古霊に牙を向き給え!!」
実はミルドレッドですら、古霊に言霊をぶつけるのは初めてのことである。だから、このオリジナルの言霊が無事発動するかどうかは賭けだった。即席で絞り出した言霊だったが、オディウムは聞き届けてくれるだろうか。
「ム……グググ……ぐぎゃおおおおおお!!!!!」
発動まで数秒待ったが、やがてアディペムンドゥは断末魔の叫び声をあげて崩壊した。グズグズ形が崩れていったそばから、蒸発するように天へと昇って行った。
勝敗は全員無傷で、且つ、止めを刺したミルドレッド達に軍配が上がった。
「やりましたねミルドレッド様!!」
「さすがですミルドレッド様!!そんな言霊があるなんて!!」
弟子たちはミルドレッドに尊敬の眼差しを向けたが、ミルドレッドは内心冷や汗をかいていた。オリジナルの言霊は一歩間違えれば盛大に失敗する。オディウムが願いを聞き届けてくれて心の底から助かったと胸を撫で下ろした。
「貴方達も教えたとおりにやるだけじゃなくて、時と場合によって言霊を考えなさい。それができて初めて一人前の言霊使いよ」
「はい!」
エラとニナは威勢良く返事したが、ケフィとベルはまた違った気持ちでその言葉を受け止めた。
『時と場合によって言霊を考える』。それは、醜い人殺しだけが、他人を呪うだけが言霊じゃない。使いようによっては新しい言霊もあるのだ。そう、ケフィは思った。一方ベルは、また違うことを考えていたのだが……。
「ハァイ、くそブス女。余裕で勝ったわよあたしたち。次はあんたたちね。精々死なないように気をつけなさい。死んでくれたほうが有難いけど」
ミルドレッド達は出番待ちをしていたテンパランス達にそう声をかけた。
「あら、逃げなかったのね、バカ女。残念だわ」
次はテンパランス達の出番である。
テンパランス達のグループも、その怪物に驚きが隠せなかった。
すでに二組がこの怪物を始末したなどとは、にわかには信じられない。
「ニコ、やれそう?」
テンパランスがニコに声をかけた。
「神様は倒せるって言ってる」
「そう、じゃあアルシャイン!援護をお願い!」
「解りました!」
怯んでばかりもいられない。他の能力者たちは一斉に術を浴びせかけた。
「火の神!!」
「毒の神!!」
「フランマよ、燃やし尽くせ!!」
「ペトラムよ、石飛礫を!!」
しかし他の能力者たちの術では大したダメージを与えられなかった。
「火、石、毒、氷はダメか……」
その時、他の奇跡使いが雷の神を呼んだ。
バリバリっと、会場の照明や電線から電撃が飛んでいき、アディペムンドゥは怯んだようだった。
「は!電撃は効くのね!!行くわよ、水の神!!」
テンパランスは水の神を呼び、アディペムンドゥに浴びせかけた。
「ニコ、電気の神を呼んで!」
「はい!電気の神!」
すると、競技場周囲に張り巡らされている電線や電気器具がアディペムンドゥめがけて放電し、ズドンという轟音と共に光が弾けた。
こんな強烈な電撃を食らったらひとたまりもないだろう。しかしアディペムンドゥはまだ生きていた。
「しめた!まだ我々にも勝機はあるぞ!!」
他の能力者たちが一斉に術を浴びせかけた。アディペムンドゥはしばらく食らったままだったが、一瞬こちらの手が止まった隙に、猛烈に怒り狂って大暴れしだした。
何名かの能力者たちが跳ね飛ばされ、致命傷を負って戦闘不能となった。
「あれを止めなければ…ニコ!重力の神よ!!」
「じゅうりょくのかみ!!」
ニコの強烈な奇跡は、会場中の重力を操作した。あまりの重力に、誰もが地面に縛り付けられた。
「くっ……!き、金属の神!!」
地面に這いつくばったまま、テンパランスがアディペムンドゥに金属の飛礫を浴びせかけると、アディペムンドゥは細切れに切り刻まれた。
「ニコ、ニコ、もういいわ」
ニコが術を解くと、アディペムンドゥは煙のように消えた。
勝負は生き残った能力者チームだった。勿論テンパランス達がポイントとしてはリードしていた。
第二試合、第三試合と試合が進み、上位入賞チームが絞られていった。
こうして上位入賞チーム五組が、二次予選に進出した。
二次予選は一週間後。今度は全国から上位チームが集まってくる。
一同は冷や汗を流しながら気を引き締めるのであった。