テンパランスの事務所に、平凡な日常が戻ってきた。
テンパランスが伝票整理をし、アルシャインとニコが奇跡の小瓶を作り、イオナが家事に追われて忙しなく館内を行き来する。
ただ違ったのは、テンパランスが傷だらけで奇跡が使えないことと、ケフィという重症者の看病をしているということ。
テンパランス・アルシャイン・イオナ・ニコの四人生活にすっかりなじんでいたニコは、やっと確立された生活リズムやルールを乱すケフィの存在が受け入れられないでいた。
イオナの手伝いをして、乾いた洗濯物を折り目正しくタンスに収納する。洗濯の度に衣類や下着類が全てニコのルールで整頓されていた。常人が見たらゾッとするほどの正確さで。
そこに入り込んできた異物――ケフィの着替え。ニコはケフィの着替えのスペースを確保できず混乱していた。
「じゃあここにケフィの分をしまいましょう」
イオナは使用頻度の少ないタオル類を取り出し、ケフィのスペースを開けた。
「そのタオル……!」
「しばらく押し入れに入れるね」
ニコはお気に入りのタオルが手の届かないところに追いやられたのを寂しがった。使用頻度は少なかったが、ニコはそのタオルを撫でるのが好きだったのだ。
また、ニコにとって許しがたかったのは、アルシャインとイオナが定期的にケフィの看護をしていることだ。甘えたくてもイオナは「あとでね。ケフィの包帯交換したらね」と言う。奇跡の小瓶作りをしようと言うと、「光、命、水の神の小瓶を50個。この箱一杯にしていてくれ。ケフィの解毒をしてくるから」と、一人ぼっちにする。
テンパランスは奇跡が使えない。手伝ってもくれない。
ニコにとって、日常のルールが変更されるのは耐えがたい苦痛だった。
「いつもありがとう、イオナ」
イオナに包帯と薬を交換してもらい、解毒薬と解熱剤を飲ませてもらったケフィは、イオナにいつも感謝を述べる。
「どういたしまして」
イオナはいつも当たり前にやっている家事やメンバーの世話の延長のつもりだが、感謝されると悪い気はしない。むしろ、形式だけになった感謝が飛び交う毎日の中で、心からの感謝は喜びだった。
「具合は良くなってきてるの?」
「はい、だいぶ眩暈もなくなってきたし気持ち悪さもなくなってきたかな。まだ少し時々えづくけど」
「何も心配しなくていいからね?ゆっくり休んで」
「はい」
イオナが洗濯物籠を持って部屋から出ようとすると、開けた扉すれすれにニコが立っていた。
「キャッ!びっくりした―!ニコ!そんなとこにいたらびっくりするでしょ!」
ニコは虚ろな瞳でイオナを見下ろす。
「何してたの?」
「何って……ケフィの怪我の看病よ」
「そんなにいつまでも治らないの?」
「奇跡でも治るのに時間がかかることはあるのよ」
「ふぅん……」
「さ、ニコ、お洗濯の手伝いして。殺菌の奇跡使ってね」
「はぁい」
ケフィは何となくそのやり取りを見ていたが、ニコの態度が日に日に険しくなっていくのを感じる。可愛い後輩だから仲良くしてあげたいところだが。
「……」
扉が閉まるその刹那。ニコは憎悪を込めてケフィを睨んだかのように見えた。
「気のせいかな?嫌われちゃったかな……?」
さらに数日経過し、ケフィが起き上れるようになると、さすがに露骨な無視をするニコに、周囲が気付き始めた。ケフィが朝、ニコに「おはよう」と挨拶しても、ニコは無視して素通りする。見かねたイオナがニコに注意した。
「ニコ!ケフィ挨拶してるでしょ、そういうときなんて言うの?」
するとニコは叱られていることが分かるのか、相変わらずケフィと目を合わせないまま、
「おはようございますー」
と、口だけで返事をする。
イオナはケフィが気の毒になった。
「ごめんねケフィ。あの子、いつもはもっと素直ないい子なの。ケフィに慣れてないみたいで、ごめんね」
ケフィは笑ってごまかした。
「いいんですよ、ニコ、僕のこと敵だと思ってるかもしれないし。ほら、初めて会ったのがバトルの時だから」
「そっか……。それもあるのかも。ごめんね、ニコによく言って聞かせるね」
「お気になさらず~」
そういうと、イオナは食堂にすたすた歩いていくニコを呼び止めながら後を追った。
「解ってくれるのかなあ?あの子、どうも普通じゃないみたいだしなあ」
ニコは食堂のテーブル一面に角砂糖をまき散らし、それを積み上げて城を築いていた。ニコが退屈になると決まってやる一人遊びだ。
そこへケフィとイオナが現れた。ケフィはその城のクォリティの高さに感嘆する。
「ニコ、すごいね、これ君が作ったの?角砂糖でお城を作るなんてすごいや」
しかしニコはあえて無視をする。イオナはまたニコの態度に苛立ちを覚えた。
「ニコ?いーい?ケフィはニコの先輩なの。わかる?せ・ん・ぱ・い。元はニコより前にここにいて、修行してた仲間なのよ?」
以前にも増してケフィとの仲を取り持とうと押し付けてくるイオナ。ニコはケフィのことばかり話題にするイオナに不信感を抱いた。
「わかんない」
ニコはただ、イオナに自分のことだけを見ていて欲しかった。テンパランスが母親で、アルシャインが父親で、イオナは姉で、自分がいる。そんな疑似家庭の生活を想像して暮らしていたニコ。そのイオナがどこの馬の骨ともわからない同い年の男と仲良くしろという。大好きな姉を取られたような気持ちになったニコは、心穏やかでいられない。その思いは日増しに強くなっていく。
「イオナもケフィも大嫌い!!」
そう叫ぶと、ニコは独りになれる場所を探して駆け出した。
「ニコ!」
後を追おうとするイオナの肩に手を置き、引き留めるケフィ。
「イオナ、いいんですよ。僕、平気ですから。一人にさせてあげましょう。僕が治ったら、どのみち出ていきますから」
「でも……!やだ、そんな悲しいこと言わないでよ」
イオナはニコもケフィも引き留められない自分の無力さに、涙をにじませた。
きっと二人は仲のいい親友になれるに違いない。そう楽観していたイオナは、自分の掌の上で崩れてゆく角砂糖の城を、どうすることもできずに見ていることしかできなかった。
「イオナなんか嫌いだ、ケフィなんか嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、みんな嫌いだ……!」
ニコの感情の高ぶりに、周囲の神々のエネルギーがスパークする。いっそ殺してしまえたらと思うが、大好きなイオナがあんなに命を助けようとした人物だ。しかも尊敬するテンパランスが禁呪でその命を生き返らせたという話を聞いたら、周囲の『ケフィを殺すな』という圧力はニコにもよくわかる。しかし、それとこの感情は別物である。ニコは思い通りにならない周囲の無理解と、自分の感情のせめぎ合いに苦しんだ。
「出てけ!出てけ!ううう~~~!」
呪詛の言葉を呟きながら迷い込んだのは、今まで足を踏み入れたことのない屋敷の奥の倉庫だった。自閉して意識が解離していたニコは、ハッと我に返り、自分が知らない場所にいることに気付くと、パニックを起こした。
「あれ?!ここどこ?テンパランス様が入るなって言ったとこ?僕どうやってここに?」
すると、部屋の奥の扉の向こうから、か細い声が聞こえてきた。低い、ぼそぼそと呟くような、しわがれた声。
「……誰?」
すると、声は「その扉を開けるのだ……」と伝えてきた。
「テンパランス様がダメだって」
「構うものか、お前が欲しい力を授けよう」
「力?僕力あるよ?」
「奇跡は決まりごとが多いだろう?儂の力は無限に使えるぞ」
声に引き寄せられ、ニコは踏み込んではいけない領域に足を踏み入れた。手を伸ばし、扉に手をかける。
「奇跡を使えばその扉は開く。念じろ」
「……開け!」
すると、カチャリと小さな音を立てて、扉の鍵が開いた。
恐る恐る、扉の向こうへと足を踏み入れる。真っ暗だ。一筋の光も入らない。
「光の神!」
しかし、光の神は現れない。代わりに輝いたのは、一冊の分厚い本。赤黒い暗室のような光に包まれ、辛うじてここが書庫だとわかる。
「図書室だ」
ニコは光の元をたどり、入り組んだ本棚の迷路を進んだ。
「そうだ、その本だ。開け。儂を開放しろ」
「こんなところでご本読めないよ」
「その封印を破きさえすればいい。本を読む必要はない。儂が全ての知識を授けよう」
その本は、鍵付きの日記帳のような形をしているようだった。ブックカバーに鍵穴があり、小さなカギで封印されていて、開かない。
「開かない」
「では儂を本ごと外に持ち出せばいい。この中は神の力が及ばぬ禁域だ」
「わかった」
ニコは本の帯びる薄明かりを頼りに、書庫から本を持ち出した。
「本のおじさん、どうすれば開く?」
禁域の書庫から本を持ち出したニコは、屋敷の裏で本を開こうとあれこれ試した。
ナイフで封を切ろうとしたが傷一つつかず、燃やそうとすると本そのものが『燃やすな』と言う。
「簡単なことよ。金属の神で切ればいい」
「神で切れるの?」
「おそらくな」
ニコは気を研ぎ澄ませて、小さなナイフを作り出した。それで慎重に封を切る。
すると、赤黒い光が本から飛び出し、力の奔流となってニコの中に流れ込んだ。
「うわあばばばばば!!!!!」
猛烈な力が無理矢理その無垢な体の中を蹂躙する。弾け飛んでしまいそうなほど大きな何かが、ニコの体に流れ込んでくる!
「少年よ、よくやった。我は破壊の古霊エクシティウム。そなたに世界を破壊する力を授けよう」
「意味わかんない」
「嫌いなものを、壊す力だ」
ニコの脳裏にケフィの顔が真っ先に浮かんだ。
「悪いことじゃないの?」
「悪いことなもんか」
「×の神様が来るよ」
「古霊の力には及ばんな」
「じゃあ……じゃあ、僕……!」
ニコの意識の中で、ニコはエクシティウムの手を取った。
テンパランスが伝票整理をし、アルシャインとニコが奇跡の小瓶を作り、イオナが家事に追われて忙しなく館内を行き来する。
ただ違ったのは、テンパランスが傷だらけで奇跡が使えないことと、ケフィという重症者の看病をしているということ。
テンパランス・アルシャイン・イオナ・ニコの四人生活にすっかりなじんでいたニコは、やっと確立された生活リズムやルールを乱すケフィの存在が受け入れられないでいた。
イオナの手伝いをして、乾いた洗濯物を折り目正しくタンスに収納する。洗濯の度に衣類や下着類が全てニコのルールで整頓されていた。常人が見たらゾッとするほどの正確さで。
そこに入り込んできた異物――ケフィの着替え。ニコはケフィの着替えのスペースを確保できず混乱していた。
「じゃあここにケフィの分をしまいましょう」
イオナは使用頻度の少ないタオル類を取り出し、ケフィのスペースを開けた。
「そのタオル……!」
「しばらく押し入れに入れるね」
ニコはお気に入りのタオルが手の届かないところに追いやられたのを寂しがった。使用頻度は少なかったが、ニコはそのタオルを撫でるのが好きだったのだ。
また、ニコにとって許しがたかったのは、アルシャインとイオナが定期的にケフィの看護をしていることだ。甘えたくてもイオナは「あとでね。ケフィの包帯交換したらね」と言う。奇跡の小瓶作りをしようと言うと、「光、命、水の神の小瓶を50個。この箱一杯にしていてくれ。ケフィの解毒をしてくるから」と、一人ぼっちにする。
テンパランスは奇跡が使えない。手伝ってもくれない。
ニコにとって、日常のルールが変更されるのは耐えがたい苦痛だった。
「いつもありがとう、イオナ」
イオナに包帯と薬を交換してもらい、解毒薬と解熱剤を飲ませてもらったケフィは、イオナにいつも感謝を述べる。
「どういたしまして」
イオナはいつも当たり前にやっている家事やメンバーの世話の延長のつもりだが、感謝されると悪い気はしない。むしろ、形式だけになった感謝が飛び交う毎日の中で、心からの感謝は喜びだった。
「具合は良くなってきてるの?」
「はい、だいぶ眩暈もなくなってきたし気持ち悪さもなくなってきたかな。まだ少し時々えづくけど」
「何も心配しなくていいからね?ゆっくり休んで」
「はい」
イオナが洗濯物籠を持って部屋から出ようとすると、開けた扉すれすれにニコが立っていた。
「キャッ!びっくりした―!ニコ!そんなとこにいたらびっくりするでしょ!」
ニコは虚ろな瞳でイオナを見下ろす。
「何してたの?」
「何って……ケフィの怪我の看病よ」
「そんなにいつまでも治らないの?」
「奇跡でも治るのに時間がかかることはあるのよ」
「ふぅん……」
「さ、ニコ、お洗濯の手伝いして。殺菌の奇跡使ってね」
「はぁい」
ケフィは何となくそのやり取りを見ていたが、ニコの態度が日に日に険しくなっていくのを感じる。可愛い後輩だから仲良くしてあげたいところだが。
「……」
扉が閉まるその刹那。ニコは憎悪を込めてケフィを睨んだかのように見えた。
「気のせいかな?嫌われちゃったかな……?」
さらに数日経過し、ケフィが起き上れるようになると、さすがに露骨な無視をするニコに、周囲が気付き始めた。ケフィが朝、ニコに「おはよう」と挨拶しても、ニコは無視して素通りする。見かねたイオナがニコに注意した。
「ニコ!ケフィ挨拶してるでしょ、そういうときなんて言うの?」
するとニコは叱られていることが分かるのか、相変わらずケフィと目を合わせないまま、
「おはようございますー」
と、口だけで返事をする。
イオナはケフィが気の毒になった。
「ごめんねケフィ。あの子、いつもはもっと素直ないい子なの。ケフィに慣れてないみたいで、ごめんね」
ケフィは笑ってごまかした。
「いいんですよ、ニコ、僕のこと敵だと思ってるかもしれないし。ほら、初めて会ったのがバトルの時だから」
「そっか……。それもあるのかも。ごめんね、ニコによく言って聞かせるね」
「お気になさらず~」
そういうと、イオナは食堂にすたすた歩いていくニコを呼び止めながら後を追った。
「解ってくれるのかなあ?あの子、どうも普通じゃないみたいだしなあ」
ニコは食堂のテーブル一面に角砂糖をまき散らし、それを積み上げて城を築いていた。ニコが退屈になると決まってやる一人遊びだ。
そこへケフィとイオナが現れた。ケフィはその城のクォリティの高さに感嘆する。
「ニコ、すごいね、これ君が作ったの?角砂糖でお城を作るなんてすごいや」
しかしニコはあえて無視をする。イオナはまたニコの態度に苛立ちを覚えた。
「ニコ?いーい?ケフィはニコの先輩なの。わかる?せ・ん・ぱ・い。元はニコより前にここにいて、修行してた仲間なのよ?」
以前にも増してケフィとの仲を取り持とうと押し付けてくるイオナ。ニコはケフィのことばかり話題にするイオナに不信感を抱いた。
「わかんない」
ニコはただ、イオナに自分のことだけを見ていて欲しかった。テンパランスが母親で、アルシャインが父親で、イオナは姉で、自分がいる。そんな疑似家庭の生活を想像して暮らしていたニコ。そのイオナがどこの馬の骨ともわからない同い年の男と仲良くしろという。大好きな姉を取られたような気持ちになったニコは、心穏やかでいられない。その思いは日増しに強くなっていく。
「イオナもケフィも大嫌い!!」
そう叫ぶと、ニコは独りになれる場所を探して駆け出した。
「ニコ!」
後を追おうとするイオナの肩に手を置き、引き留めるケフィ。
「イオナ、いいんですよ。僕、平気ですから。一人にさせてあげましょう。僕が治ったら、どのみち出ていきますから」
「でも……!やだ、そんな悲しいこと言わないでよ」
イオナはニコもケフィも引き留められない自分の無力さに、涙をにじませた。
きっと二人は仲のいい親友になれるに違いない。そう楽観していたイオナは、自分の掌の上で崩れてゆく角砂糖の城を、どうすることもできずに見ていることしかできなかった。
「イオナなんか嫌いだ、ケフィなんか嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、みんな嫌いだ……!」
ニコの感情の高ぶりに、周囲の神々のエネルギーがスパークする。いっそ殺してしまえたらと思うが、大好きなイオナがあんなに命を助けようとした人物だ。しかも尊敬するテンパランスが禁呪でその命を生き返らせたという話を聞いたら、周囲の『ケフィを殺すな』という圧力はニコにもよくわかる。しかし、それとこの感情は別物である。ニコは思い通りにならない周囲の無理解と、自分の感情のせめぎ合いに苦しんだ。
「出てけ!出てけ!ううう~~~!」
呪詛の言葉を呟きながら迷い込んだのは、今まで足を踏み入れたことのない屋敷の奥の倉庫だった。自閉して意識が解離していたニコは、ハッと我に返り、自分が知らない場所にいることに気付くと、パニックを起こした。
「あれ?!ここどこ?テンパランス様が入るなって言ったとこ?僕どうやってここに?」
すると、部屋の奥の扉の向こうから、か細い声が聞こえてきた。低い、ぼそぼそと呟くような、しわがれた声。
「……誰?」
すると、声は「その扉を開けるのだ……」と伝えてきた。
「テンパランス様がダメだって」
「構うものか、お前が欲しい力を授けよう」
「力?僕力あるよ?」
「奇跡は決まりごとが多いだろう?儂の力は無限に使えるぞ」
声に引き寄せられ、ニコは踏み込んではいけない領域に足を踏み入れた。手を伸ばし、扉に手をかける。
「奇跡を使えばその扉は開く。念じろ」
「……開け!」
すると、カチャリと小さな音を立てて、扉の鍵が開いた。
恐る恐る、扉の向こうへと足を踏み入れる。真っ暗だ。一筋の光も入らない。
「光の神!」
しかし、光の神は現れない。代わりに輝いたのは、一冊の分厚い本。赤黒い暗室のような光に包まれ、辛うじてここが書庫だとわかる。
「図書室だ」
ニコは光の元をたどり、入り組んだ本棚の迷路を進んだ。
「そうだ、その本だ。開け。儂を開放しろ」
「こんなところでご本読めないよ」
「その封印を破きさえすればいい。本を読む必要はない。儂が全ての知識を授けよう」
その本は、鍵付きの日記帳のような形をしているようだった。ブックカバーに鍵穴があり、小さなカギで封印されていて、開かない。
「開かない」
「では儂を本ごと外に持ち出せばいい。この中は神の力が及ばぬ禁域だ」
「わかった」
ニコは本の帯びる薄明かりを頼りに、書庫から本を持ち出した。
「本のおじさん、どうすれば開く?」
禁域の書庫から本を持ち出したニコは、屋敷の裏で本を開こうとあれこれ試した。
ナイフで封を切ろうとしたが傷一つつかず、燃やそうとすると本そのものが『燃やすな』と言う。
「簡単なことよ。金属の神で切ればいい」
「神で切れるの?」
「おそらくな」
ニコは気を研ぎ澄ませて、小さなナイフを作り出した。それで慎重に封を切る。
すると、赤黒い光が本から飛び出し、力の奔流となってニコの中に流れ込んだ。
「うわあばばばばば!!!!!」
猛烈な力が無理矢理その無垢な体の中を蹂躙する。弾け飛んでしまいそうなほど大きな何かが、ニコの体に流れ込んでくる!
「少年よ、よくやった。我は破壊の古霊エクシティウム。そなたに世界を破壊する力を授けよう」
「意味わかんない」
「嫌いなものを、壊す力だ」
ニコの脳裏にケフィの顔が真っ先に浮かんだ。
「悪いことじゃないの?」
「悪いことなもんか」
「×の神様が来るよ」
「古霊の力には及ばんな」
「じゃあ……じゃあ、僕……!」
ニコの意識の中で、ニコはエクシティウムの手を取った。