第七話 忠誠心という名の恋情



2024-11-12 17:24:07
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「シャワー室には入ってくるなって言っただろ!」
 ジェイクはアントンを叱り追い出そうとするが、ドアはアントンが立ちふさがっていて開けることができない。ジェイクより10cmほど身長の高いアントンの身体は大きく、力づくで退かせるような図体ではない。
「僕に任せてください。悪いようにはしませんから」
 そういうとアントンはジェイクを壁に押し付け上着を脱がせにかかった。
「な、何する気だよ!?」
「ご奉仕です」
 上半身を裸に剝くと、ジェイクの斑な皮膚が露になった。猿族の人間のような肌色でツルツルの皮膚と、コートのホコリ取りブラシのような短い毛が密集した毛皮のブチ模様。だが、そういう模様の猫なのだと思えば禿げた皮膚に関して特別な感情はない。お目当てはその下にある。
 ベルトに手をかけ、金具を外してファスナーを下ろし、下着ごと一気に下ろす。すると股間には丸い大きな毛の塊があった。おそらくこれがふぐりであろう。アントンはその毛玉をやにわに揉みしだいた。
「何すんだよ!」
 ジェイクは激昂しイカ耳になってアントンを威嚇した。ふぐりを掴む手を反射的にひっかき、アントンの手に血がにじむ。
「大丈夫、安心してください。悪いようにはしません」
 ジェイクは必死に抵抗したが、アントンに空いた手で両手を掴まれ壁に押さえ付けられたため、引っ掻き攻撃は通用しなくなってしまった。ふぐりを揉みしだかれるたびに下半身が内側からむず痒くなる。たまらずジェイクのふぐりから肉の芽が伸び、茨のように棘に覆われた凶悪な姿を見せそそり立った。すかさずアントンはその肉の芽にしゃぶりつき、先端を口中で転がす。その刺激にジェイクは抵抗する力を失ってしまった。
「な、何すんだ……正気かお前……」
 アントンは無言で肉の芽にむしゃぶりつく。猫族の陰茎は無数の棘に覆われていて、茎はまるで薔薇のそれのようで、とても掴めない。だがアントンはなりふり構わず、その棘だらけの茎を掴んで上下にしごき、先端を舌で転がし続けた。強制的にもたらされる快感に、ジェイクの腰は砕け、ずるずると床にへたりこむ。意識では腰を引いてアントンから逃れようとするのに、快感の波が襲ってくると、無意識に腰を浮かせてアントンの口内に深く押し付けてしまう。抵抗と服従を繰り返しているうち、腰の動きは次第にピストン運動を描いていて、快感はより大きくせりあがってきていた。
「あ、ああ、はあ、はあ、にゃ、にゃおーん……」
 耳を後ろに伏せたまま、弱々しく猫そのものの鳴き声を上げるジェイク。既に理性はドロドロに溶かされ、野性的な本能に身を任せきっていた。ジェイクはすっかり一匹の雄猫になっていた。
「にゃお、にゃおん……。にゃお、にゃおーん……」
 ジェイクはアントンに床へ組み敷かれながら、尻尾を股に挟んで太腿の付け根に巻き付け、快感に耐えている。アントンのもたらす口撃は止まない。
「にゃ、にゃああああああっ!!」
 ジェイクの精が先端までせりあがってきたとき、彼の身体が大きく痙攣し、アントンの口内に勢いよく白濁液を吐き出した。
 ジェイクは全身をビクンビクンと痙攣させ、虚ろな瞳で恨めしそうにアントンの毛むくじゃらの顔を力無く睨んだ。
「てめえ……いきなり何すんだ……」
 次第にはっきりしてきた意識で、ジェイクはアントンを恨みがましく睨んだ。一方アントンは満足そうに微笑んでいる。
「ご満足いただけましたか?」
「何がご満足だ!ふざけやがって!おら、退け!」
 ジェイクは威嚇し、上に覆いかぶさるアントンを退かして立ち上がった。そして片膝をついたままジェイクを見上げるアントンを見下ろし、抗議する。
「何がしたくてこんな真似しやがるのか知らねーけどな、俺はお前とそういう関係になる気はないって言ってるだろうが!俺の本命はモモなの!俺は男に興味はねえの!今度こんな真似しやがったら許さねーからな!」
 しかしアントンは真面目な顔で「ご奉仕したかったんです!」と声を張った。
「僕は貴方のためならどんな汚れ仕事でもするということを解っていただきたかったんです!貴方のためなら何でもします。それを僕の忠誠心だと思ってください。僕のことを好きにならなくても僕は構いません!僕の好意が受け入れられないというなら、僕をあなたの望み通り利用してくださっても、僕は十分嬉しいんです!」
 アントンの曇りなき瞳の輝きが、彼の長い眉毛の隙間から煌めいていた。ジェイクは嘆息する。
「犬みてえな奴だな」
 アントンはそれを受けて彼が散々浴びてきた罵声を自虐的に自称する。
「『犬人間』ですから」
「勝手にしろ」
 ジェイクはすっかり裸に剥かれた体を洗い流そうと、シャワー室に入っていった。アントンは慌てて服を脱ぎ捨て、彼と一緒にシャワー室に入る。
「まだ何かする気かよ?!」
「いえ、お背中を流そうかと」
 ジェイクは疑いの目を向けつつも、プイとそっぽを向いて、「勝手にしろ」と言い、大人しくアントンに身体を洗わせた。

 その翌朝、リビングに降りていくと花瓶の花はすっかり枯れ、根元から茎にカビが生えていた。
「お、花ダメになってるじゃん。捨てようぜ」
 ロゼッタはゴミ箱に投げ捨てられた枯れた花を見下ろして、「綺麗な花だったな」と残念そうに独り言ちた。
 すると、それからというもの不思議な夢は一切見なくなった。奇想天外で意味不明な、いつも通りの夢をおぼろげながら記憶するのみである。ジェイクは二人に夢の話を振ってみた。
「お前ら、あれから変な夢見たか?」
「え、見てないよ?」
「そういえば見てないですね。夢は見ていますが、ほとんど覚えていないです」
 ジェイクは見ていないと嘘を言っていたため、他の二人に疑問を持たれた。
「ジェイクもあの時夢を見たんですか?」
「ジェイク夢見てないって言わなかった?」
 ジェイクはそれを思い出し、慌てて嘘を重ねる。
「え、あ、俺?!俺は見てねえよ?!お前らが見たっていうから!」
「ふーん」
(あぶねえ……。あんな夢見たことがバレたらアントンに何されるかわかったもんじゃねえ)
 夢を見なくなって数日経ったある日、ジェイクはまた店先にあの花が咲いているのを見つけた。この花は何かありそうだ。そう考えた彼は花屋のモモにこの花について訊いてみようと考えた。ついでなのでアントンとロゼッタも連れていく。
「んん~?見たことない花だなあ……。少なくとも花屋に入荷するタイプの花じゃないかも」
 花屋の看板娘・モモは一輪の不思議な花を見て首をひねった。5年以上花屋で働いているが、こんな花を取り扱った記憶はない。
 モモはジェイクと同い年で、彼の幼馴染の猫族だ。ジェイクとは対照的に体中真っ黒な長い毛に覆われ、もっふもふの毛皮を大きめに採寸されたワンピースに隠している。ワンピースから覗く手も顔も脚も尻尾も、手触りのよさそうな長毛に覆われ、思わず触りたくなるような魅力に満ちている。
「そうか……花屋には流れてこない花か……。その辺の雑草の一種なのかな?」
「多分」
 しかしこんなに香りがよく見栄えのする花なのに、花屋で取り扱わないレアな花だとはとても思えない。それに、何より夢のことが気になって仕方ない。
「このお花をリビングに置いたら、変な夢を見たの」
「変な夢?」
 ロゼッタは説明する。
「ほんとに起きているときみたいな夢を見てさ、起きてから夢の通りにやってみたら、夢が本当になったの!あたし魔法使えないんだけどね、夢で見た通り魔法銃を撃ったら魔法がドカーン!って大爆発してさ。あたしにこんな力があるなんて知らなかった」
「夢が教えてくれたの?」
「うん」
 アントンは内容的に説明できないため、内容をぼかしてロゼッタに続く。
「僕も変な夢を見ましてね。その夢を見た数日以内に正夢になっていますね」
 それを聞いて、モモはある提案をした。
「そういう不思議なことが起きた時は、繊細族(センシティア)の占い師に訊いてみるといいよ!ボク、一人そういう人知ってるんだ。ボクが紹介してあげるよ!」
 こうして四人は繊細族の占い師の門を叩くことにした。

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