第十四話 ロゼッタの冒険



2024-11-12 19:13:14
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 ロゼッタの冒険者レンタル事業は店にやってくる冒険者たちの興味を引いたようだ。なかなか契約まではいかなかったが、「困ったときは頼るかもしれない」と、好評を得ていた。しかし、現時点ではアンダースたち以外に契約をしようというものは現れなかった。
「ジェイク、そんなにあたし頼りなさそうに見えるかなあ……」
「当たり前だろ。お前まだほんの子供じゃねえか。そんなにホイホイ依頼なんか来ねえよ」
 そんな退屈な毎日を過ごしていた時である。ジェイクの店にとある冒険者パーティーが訪れた。
「いらっしゃい。おや、怪我してるじゃねえか。大丈夫かい?」
 その冒険者パーティーはボロボロに傷つき、やっと歩いているような様子だった。
「ああ、大丈夫だ。あとで回復魔法をかけて治す。それはそうと、広範囲をいっぺんに攻撃できる武器はないか?クエスト先の敵が多すぎて、やっと逃げてきたんだ」
 どうも、クエストに失敗してそのままの状態で店にやってきたようだ。
「広範囲をいっぺんにか……。難しいな。なんかあったかな?」
 ジェイクは記憶を頼りに店の中をひっかきまわし、これでもない、あれでもない、と、客に有効そうな武器を見繕っては却下を繰り返した。
「魔法使いはどうだ?」
「あたしが魔法使いなんだけど、とても魔力が追い付かなかったわ。帰還の魔法の分を残すと、ほとんど魔法は撃てないの」
 万策尽きたかに見えたその時。
「あたし。あたしをレンタルしない?」
 ロゼッタが勇気を出して声を掛けてみた。
 一瞬時が止まり、全員の視線がロゼッタに注がれる。ジェイクはハタと手を打った。
「そうだ!こいつを連れて行ってみないか?今こいつを冒険者パーティーにレンタルしてるんだよ。こいつな、マジックアイテムの効果を何倍にも増幅させてぶっ放せるブースターなんだ!」
「ブースター?こんな小さな子供が?」
 ロゼッタは照れ臭そうにはにかんだ。
「アンダースのパーティー知ってるか?あいつらに貸し出した時、黒いシーの大軍を一発の魔法玉で全滅させたらしいんだ。腕は確かだぜ。だが、まだ小さい子供だから、無事に帰してくれるっていう条件付きだがな」
 そうは言われてもにわかには信じられない。彼らが全滅寸前で逃げ帰ってきた難所を、生きて帰ってこれるかは保証できない。
「どのくらいの力があるか見せてもらえるかい?」
「じゃあ、店の裏の空き地で。ロゼッタ、これを使え」
 一行は店の裏の空き地でロゼッタの力を目の当たりにした。
「みんな離れて。やってみせるよ」
 銃の試し撃ち用の弾を癇癪玉の要領で地面にたたきつける。すると巨大なつむじ風が巻き起こり、その場にいた全員が吹き飛ばされないように地面にしがみついて耐えた。
「す、すごい……!あんな小さな銃の弾一発で、この威力…!」
「ぜ、ぜひレンタルさせてくれ!よろしく頼む!」
 ジェイクとロゼッタは目くばせし合って大げさにお辞儀した。
「毎度ありがとうございます!」

 出立の朝、パーティーメンバ―は銘々自己紹介をした。
「俺はパーティーリーダーのリカルド。見ての通り犬族の戦士だ。よろしくな」
 狼のような巨大な体躯と顔つきをした犬族の男が握手を求めてきた。ロゼッタは小さな手を差し出して握手を受ける。
「俺はダニエル。鍵屋だ。お前さんと身長はそう変わらないが、小人族だから結構長生きしてるんだぜ。よろしくな」
 ロゼッタと同じ目線で話す男は、ずんぐりむっくりした体格の小人だった。
「私は癒しの手のアマリリス。繊細族よ。怪我したら私に言いなさい」
 癒しの手という割には完全武装した女だった。結構前衛派なのかもしれない。
「あたしは魔法使いのホリー。あんたと同じ妖精族よ。しかしあんた魔力強いね。びっくりした」
 魔法使いらしいローブ姿の女が、ロゼッタの頭をなでてきた。プライドの高そうな顔つきをしているが、ロゼッタを認めてくれているらしい。
「私が今回の依頼人のミカエルだ。考古学者をしている。昔のことを調べる博士ってところかな。まさかこんなにてこずると思わなくて、困っていたんだ。よろしく頼むよ」
 長毛の眼鏡をかけた犬族の男が握手を求めてきた。ひょろひょろしているので、本当に研究しかしていないのであろう。
 全員の自己紹介が終わると、ロゼッタはメモに名前と職業をメモし、一生懸命覚えようとした。
「あたし、頑張ります。よろしくね」
 一行は蒸気自動車に乗り込み、数時間車に揺られていると、やがて目当ての古代遺跡に到着した。
「さて、入り口から気を引き締めろよ。来るぞ」
 ロゼッタが最後尾で遺跡の敷地に侵入すると、トンネルを抜けた時のような耳が詰まる感覚を覚えた。こんな時はつばを飲み込むと耳が抜けるということを覚えていたロゼッタは、つばを飲み込むと、耳がはっきりする感覚が戻った。
(変なの……)
 と、にわかにカタカタと何かが動く異音がし始めた。
「来るぞ、構えろ!」
 リカルドが声を掛けると同時に、遺跡の前に散らばる十数体の球体関節人形が立ち上がり、襲い掛かってきた!
「ひっ、お人形が!」
考古学者のミカエルはロゼッタをかばい、敷地の隅に逃れて冒険者達の戦いを見守った。
「入口の奴らを倒すまでここで待っていよう。君の出番は最後まで取っておきたい」
「わかった」
 ほぼリカルド、ダニエル、アマリリスの打撃攻撃で入口の人形を片付けると、一行は奥に侵入した。
「次はここで矢が飛んでくるから伏せておくんだ。いいかい、起動させるよ」
 考古学者は先頭に立ち、小さくしゃがんでよちよちと歩を進めた。一行も体を伏せて矢が飛んでくる罠に備える。
 ガコっと重い音がしたかと思うと、前方から矢が三本飛んできた。
「もう大丈夫だよ。進もう」
しばらく進むと、目の前に岩のブロックが立ちふさがり、天井付近に少しだけ隙間が空いていた。
「これ、進めるの?」
「フック付きロープで登るしかない。そんなに高くないからすぐ越えられるよ」
 一行はフック付きロープを頼りに岩をよじ登り、すぐに足元の隙間から岩を降りた。
「この邪魔な石は何だったの?」とロゼッタが訊くと、
「おそらく以前この遺跡に入った人が作動させた、岩が落ちてくる罠じゃないかな」と考古学者が答える。
(とんでもないところに来ちゃったな……)
 ロゼッタは本当に無事に帰れるか不安になってきた。
しばらく歩を進めると、がらくたが散らばった広い部屋にやってきた。
「ここから戦いが厳しくなるぞ!気を引き締めていくぞ!」
 リカルドが声を掛け、部屋に一歩侵入すると、部屋中のガラクタが立ち上がり、攻撃を仕掛けてきた!入口にいた人形の戦士達と同じらしい。
「この人形何なの?!」
 ロゼッタが入口の壁に隠れて考古学者に問う。
「我々の間では『トイソルジャー』と呼ばれている、古代の殺戮ロボットだよ。敵が侵入すると魔法が起動して、倒しても倒しても立ち上がって侵入者を排除しようとするんだ。前回もここから先に進めなくなってしまった」
「倒す方法はないの?」
「ばらばらに破壊するしかないね」
 ロゼッタは入り口から顔だけ出して、ほかのパーティーメンバ―の様子を覗った。ホリーは魔法で蹴散らし、アマリリスは力を増幅する補助魔法をかけている。リカルドとダニエルは一体一体地道に攻撃しているようだ。やがて最後の一体を仕留めると、冒険者たちはその場にへたり込んでしまった。はあと一つ大きなため息をついてアマリリスが立ち上がると、パーティーメンバーたちに全体回復魔法をかけた。
「先生、我々は少し休みます。その、研究を進めてください」
 リカルドが考古学者に声を掛けると、彼は室内に侵入し、奥の玉座や壁の文様を調べ始めた。
「ありがとう。ご苦労様」
 ロゼッタはおずおずと室内に侵入し、一行に謝った。
「ごめんなさい。まだ冒険始めたばかりで、こういうの怖くてよくわからなかったから、助けられなかった。次はちゃんと戦うから」
 アマリリスはロゼッタの頭を撫で、
「いいのよ。あなたはレンタルしているから、無事に帰さなくちゃいけない。助けてほしいときは声を掛けるから、なるべく隠れてて」
 しかし、鍵屋のダニエルは不満そうだった。
「だが、レンタルしている以上は働いてもらわないと困るぜ。次の戦闘からは攻撃に参加してくれ。おそらくこの次もあの人形が攻めてくる」
 ダニエルの厳しい意見に、ロゼッタは覚悟を決めた。腰の銃を取り出し、炎の弾丸を込めた。
「わかった。次からは頑張る」
 すると、考古学者が皆に声を掛けてきた。
「秘密がわかった!この玉座を動かしてほしい!手を貸してくれ!」
 リカルド、ダニエル、ミカエルの三人が玉座を動かすと、玉座のあった位置に三つの窪みがあった。
「おそらくこの窪みに、前回集めた宝玉をはめるんだ」
 ミカエルは三種類の宝玉を窪みにはめてみた。しかし、何も起こらない。何通りか場所を変えたり手順を変えたりしてはめ込んでみるが、それでも何も起こらなかった。
「おかしいな……」
「その宝玉、ちょっと貸してみろ」
 ダニエルが宝玉を詳しく調べると、宝玉にはごく小さな凹みがあった。
「この凹みが噛み合ってねえんじゃねえか?」
 ダニエルは宝玉を窪みにはめ込み、くるくる回して凹みと窪みの突起が噛み合う位置を探った、
 カチリ。
 小さな音がすると、地面が振動し、奥の壁が左右に開き始めた。
「さっすが鍵屋!ビンゴだ!」
 新しく生まれた奥へ続く扉の前に立ち、アマリリスがライティングの魔法を向けると、奥の部屋には無数のトイソルジャーがひしめき合っていた。
 一行の脳裏に絶望の二文字がよぎる。トイソルジャーたちの瞳が赤く光った。
「下がれ!下がれー!」
リカルドが後退すると同時におびただしい数のトイソルジャーたちが襲い掛かってきた!
「どうする?相手にし切れるか?!」
「ここまで来て引き下がれるかよ!!」
 乱戦、混戦、あたりは混沌と化した。ロゼッタは、「今こそやらなくちゃ!」と、銃を構えた。
「みんな伏せて!撃つよ!」
ロゼッタが引鉄を引くと、銃口からはドラゴンの姿をして逆巻く炎が噴き出した!一挙にトイソルジャー十数体を撃破する。
「す、すげえ……」
「もっと!もっとガンガンやってくれ!」
 気をよくしたロゼッタは、部屋の隅に逃れると弾を込め、爆裂の弾丸を放つ!二十体以上は破壊した。だが、まだまだ数十体のトイソルジャーが控えている。ロゼッタの銃は頑丈さを重視したフリントロック銃のため、一発一発に手間がかかる。ロゼッタは倒しても倒しても湧いてくるトイソルジャーをまとめて始末できるような強力な力を欲した。
「そうだ!ジェイクから、一番強い弾もらってたんだっけ!あれでやっつけられる!」
 ロゼッタは腰のポーチから小さな箱を取り出すと、そこに収められている弾丸を込めた。
「いっくよー!えい!」
 耳をつんざくような発砲音と同時に、室内の壁中にヒビが入るほどの衝撃波。ロゼッタは後方に吹き飛ばされ、壁に背中を打ち付けた。
辺りがしんと静まり返ると、そこに立っているものは、誰一人としていなかった。トイソルジャー、全滅である。
「え、……やった、みんなやっつけた?」
 やったーとロゼッタが飛び跳ねて、仲間のもとに駆け寄ると、そこには重傷を負って虫の息になった仲間たちが倒れていた。
「あ……」
 ロゼッタは悟った。仲間まで皆殺しにしてしまった。
「うそ……。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。どうしよう、ごめんなさい」
 ロゼッタは顔面蒼白になり、罪の重さに押しつぶされそうになって恐慌状態に陥った。ロゼッタは泣いた。慟哭をあげ、この先どうやって帰ったらいいのか、後悔に泣き喚いた。
「ごめんなさああああい!!!」
すると、アマリリスが手を伸ばし、ロゼッタのふくらはぎに触れた。
「アマリリスさん!生きていたの?!」
「こ、これを……。最後の、切り札……。あなたにしか頼めない、使って……」
 アマリリスが手渡してきたのは回復の魔宝玉であった。ロゼッタにもこれは見覚えがあった。
「そうか!あたしがこれ使えば、みんな助かるかも!」
 ロゼッタは魔宝玉を両手で握りしめ、祈った。どうか、間に合いますように。みんなが、復活しますように。失敗を、取り返せますように!
 魔宝玉が輝きだし、あたり一面まばゆい光に包まれた。目をつぶっていても、まぶた越しに光の強さを感じる。しばらく強い光が辺りを満たしていたが、次第に光は弱くなり、やがて収束すると、仲間たちがピクリと動き、ゆっくりと体を起こした。
「死ぬかと……思ったぜ」
一人、二人と立ち上がり、全員の無事が確認された。
「ご、ごめんなさああああああい!!!」
 再び泣き始めるロゼッタを、アマリリスとホリーが抱きしめた。
「もういいよ。大丈夫だよ。あんたのおかげで、助かった」
「ありがとう。あなたは素晴らしいブースターだわ」

 その後、考古学者のミカエルが最深部を調査すると、金銀財宝が収められている王家の墓を暴いた。ミカエルは歴史的価値のありそうなお宝と、その他の財宝を分類すると、研究に使用しない財宝をパーティーメンバーに分け与えた。
「ありがとう。これが報酬だ」
「ヒャッホウ!一時はどうなるかと思ったけど、生きて帰れてよかったぜ!」
 ロゼッタも小さな宝石を報酬として受け取った。
「ほんと、ごめんなさい」
「いいってことよ。お前さんのおかげで死にかけたが、お前さんのおかげで助かったからな」
 ダニエルが励ますと、ホリーはロゼッタに忠告する。
「あんたの力は確かにすごかった。それは認めるよ。だけど、使い方は慎重にしなくちゃいけないね。あたしたちはたまたま助かったけど、このサービスをこれからも続けるなら、力の使いどころは考えないといけないよ」
「うん、気を付ける。今度は失敗しない」
 ロゼッタは仲間たちと別れると、ジェイクの店に帰還した。
 冒険の思い出話は苦い味がしたが、ロゼッタにとって大きな経験値となった。

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