ジェイクの店は武器屋である。そう頻繁にお客で賑わうような店ではない。今日もジェイクは退屈そうに、ごくたまにやってくる上客が訪れるのを待っていた。
「あー退屈だなあ。猫でも飼うかな」
それはほんの気まぐれに吐いたボヤキだったが、猫族のジェイクの口から出た「猫を飼う」という言葉にアントンとロゼッタは仰天した。
「ええ?!ジェイクが猫を?!」
「それって、ジェイク的にどうなの?!」
しかしアントンとロゼッタの驚きポイントにピンとこないジェイクは訊き返す。
「ジェイク的にどうなのって……俺が猫飼っちゃいけねえのかよ」
アントンとロゼッタには奇妙に感じる。猫にそっくりな人間の猫族が、猫を飼育する。猫が猫を飼育するというのはどんな感覚なのだろう。
「ジェイク猫族でしょう?猫族にとって猫ってどうなのかなと……」
「猫は猫だろ。ペットじゃん。なんか問題でも?」
一方ジェイクにとって猫はただの猫という認識らしい。アントンとロゼッタが問題に感じる意味がよく解らない。
「え……ジェイクにとって、猫って猫なんだ?」
そこでやっとアントンとロゼッタが言わんとしている意味に気づいたジェイク。おそらく二人は何か勘違いしている。
「……あ!俺が猫族だから猫飼うのはおかしいって言いたいのか?!あのな、猫族は猫じゃねえぞ?!猫族は人間!!猫は猫!ただのペット!ライオンもトラも動物!猫族とは別の生物!」
「えっ……そういう認識だったんですか」
確かに猫族は山岳猫という山岳地に生息している大型猫種が進化して生まれた人種である。猿の一部の類人猿が進化して猿族になったのだと考えれば、猫族が猫をただの動物と認識することに特に不思議はないのである。
「アントンも猿族だからって猿呼ばわりされたらムカッと来るだろ?」
「あー……、確かに猿族は猿ではないですね。猿族は人間。猿は猿」
その共通認識に、同じ系統からは外れた妖精族のロゼッタは驚く。
「え?!そういう感じなの?!あたし猫族や猿族は猫や猿は仲間なのかと思ってた!」
「ロゼッタ……お前な……。まあ、妖精族は下位互換がないからそう感じるのもおかしくはないか」
確かに妖精族はシーやエルヴェンやフェアリーなどいくつかの系統があるが、どの系統の人種も高度な知性と文化を持つ知的生命体なので、動物と呼べる下位互換はない。
「かいごかんってなに?」
「ペットになる動物ってことだ」
「あー、妖精族のかいごかん、ないね」
と、いうことは、だ。二人はジェイクのことを猫畜生と変わりないと認識していたということになりはしないか。
「ん?待てよ。てことはアントンもロゼッタも俺のことその辺の猫と同じだと思ってたのか?!」
慌てて二人は弁解する。
「いやいやいや、決して、そんなことは」
「ジェイクは可愛いけど、人間だと思ってるよ」
「可愛いって何だお前?!やっぱ猫だと思ってたのか……」
「思ってないったら!」
猫族は他の種族からナメられやすいとは感じていたが、ここにその証左が示された。やはり他種族は猫族を大きな可愛い猫と思っていたのである……。
このままだとまずい空気になりそうだったので、アントンは話題を逸らした。
「じゃあ、猫を飼うとして、ジェイクはどんな猫が欲しいんですか?」
「え?ああ~、猫飼うなら絶対これって決めてるのがいるんだ」
「どんな猫?」
「長毛でモコモコの黒猫の雌」
長毛で、モコモコで、黒猫。且つ、雌猫。それは、つまり……。
「ジェイク……モモさんのこと……」
ジェイクは慌てて弁解する。
「モモのことは意識してねーよ?!モモは人間だからな?!確かに特徴は似てるけど、猫は猫!モモの代わりになんかしねーし!」
必死なのが余計に怪しい。ロゼッタも白い目を向ける。
「モモさんに振られたからって猫で紛らすのはやめなよ。猫ちゃんが可哀想」
「だから!ちっげーって!猫の好みとモモは似てるけど別物だから!」
猫族のジェイクが猫でどう気を紛らすつもりなのかはあまり考えたくないことだ。
「まあ、黒猫の長毛は可愛いですね。雄は嫌なのですか?」
アントンの問いに、ジェイクは希望を答える。
「どうせだったら増やしたいじゃん?雄雌つがいで飼ってもいいかもな」
だが、猫と猫族の赤ん坊は一見して見分けがつかない。髪の毛のあるなしで一応区別はつくが、猫族の子供と成猫は大きさもさほど変わらない。
「ジェイクが猫飼ったら絶対ジェイクの子供に見えちゃうよ……。尻尾で猫じゃらしとかするんでしょ?」
「猫じゃらしはわざわざおもちゃ買うより尻尾でじゃらすので十分なんだよ」
大きな猫である猫族のジェイクが、尻尾で子猫をじゃらす姿を想像する。それは、サバンナで子ライオンをじゃらす母ライオンの姿と何が違うのだろう。
「大きな親猫……」
「なんか言ったかアントン」
「いえ、微笑ましいなと」
アントンはニコッと微笑んで誤魔化した。
猫の話をしたらどうしても今すぐ猫が欲しくなってしまった三人は、早々と店じまいをし、ペットショップに向かった。可愛い子猫や子犬がケージに入って陳列されている。
「黒猫……長毛……いねえかな……」
すると、店の奥に隠れるようにして一匹の黒猫の長毛種がケージの中で震えていた。
「いたーー!!長毛黒猫!」
ジェイクたち三人がケージに張り付いて黒い子猫に見入っていると、熊族の店主が三人に近づいてきた。
「お気に入りが見つかりましたか?」
「お、おう!黒の長毛が欲しかったんだ!こいつ、いくらだ?」
「黒猫は人気がなくて、その子はなかなか売れなかったんですよ。結構大きく育ってしまったので、特別に五〇〇ファルスでいいですよ」
「五〇〇?!そんなに安くていいのか?」
「処分価格です」
「買った!」
ジェイクは即決した。
「ありがとうございます」
そのままペットショップで猫のトイレとトイレ砂、餌の皿と餌を購入し、上機嫌で三人は帰路に就いた。
「名前何にする?」
「カトリーヌにしようぜ!」
しかしここで、アントンが重要なことに気付く。
「そういえば、性別を確認していませんでしたね。雄かな、雌かな」
アントンが子猫のお尻を確認すると、小さな毛の塊が肛門の下についていた。
「雄ですね」
「お、雄―――――――?!」
「どうします?名前?」
「適当に……カールとでもつけてしまえや……」
ジェイクは意気消沈して、しぶしぶ猫の名前をカールと名付けた。
だが、数日も一緒に暮らすと、カールはジェイクによく懐き、ジェイクはすっかりメロメロになっていた。
「雄猫だけど、可愛いなこいつ」
以降、カールは三人の愛情を受けすくすくと成長し、ジェイクの店の看板猫として活躍するようになったという。
「あー退屈だなあ。猫でも飼うかな」
それはほんの気まぐれに吐いたボヤキだったが、猫族のジェイクの口から出た「猫を飼う」という言葉にアントンとロゼッタは仰天した。
「ええ?!ジェイクが猫を?!」
「それって、ジェイク的にどうなの?!」
しかしアントンとロゼッタの驚きポイントにピンとこないジェイクは訊き返す。
「ジェイク的にどうなのって……俺が猫飼っちゃいけねえのかよ」
アントンとロゼッタには奇妙に感じる。猫にそっくりな人間の猫族が、猫を飼育する。猫が猫を飼育するというのはどんな感覚なのだろう。
「ジェイク猫族でしょう?猫族にとって猫ってどうなのかなと……」
「猫は猫だろ。ペットじゃん。なんか問題でも?」
一方ジェイクにとって猫はただの猫という認識らしい。アントンとロゼッタが問題に感じる意味がよく解らない。
「え……ジェイクにとって、猫って猫なんだ?」
そこでやっとアントンとロゼッタが言わんとしている意味に気づいたジェイク。おそらく二人は何か勘違いしている。
「……あ!俺が猫族だから猫飼うのはおかしいって言いたいのか?!あのな、猫族は猫じゃねえぞ?!猫族は人間!!猫は猫!ただのペット!ライオンもトラも動物!猫族とは別の生物!」
「えっ……そういう認識だったんですか」
確かに猫族は山岳猫という山岳地に生息している大型猫種が進化して生まれた人種である。猿の一部の類人猿が進化して猿族になったのだと考えれば、猫族が猫をただの動物と認識することに特に不思議はないのである。
「アントンも猿族だからって猿呼ばわりされたらムカッと来るだろ?」
「あー……、確かに猿族は猿ではないですね。猿族は人間。猿は猿」
その共通認識に、同じ系統からは外れた妖精族のロゼッタは驚く。
「え?!そういう感じなの?!あたし猫族や猿族は猫や猿は仲間なのかと思ってた!」
「ロゼッタ……お前な……。まあ、妖精族は下位互換がないからそう感じるのもおかしくはないか」
確かに妖精族はシーやエルヴェンやフェアリーなどいくつかの系統があるが、どの系統の人種も高度な知性と文化を持つ知的生命体なので、動物と呼べる下位互換はない。
「かいごかんってなに?」
「ペットになる動物ってことだ」
「あー、妖精族のかいごかん、ないね」
と、いうことは、だ。二人はジェイクのことを猫畜生と変わりないと認識していたということになりはしないか。
「ん?待てよ。てことはアントンもロゼッタも俺のことその辺の猫と同じだと思ってたのか?!」
慌てて二人は弁解する。
「いやいやいや、決して、そんなことは」
「ジェイクは可愛いけど、人間だと思ってるよ」
「可愛いって何だお前?!やっぱ猫だと思ってたのか……」
「思ってないったら!」
猫族は他の種族からナメられやすいとは感じていたが、ここにその証左が示された。やはり他種族は猫族を大きな可愛い猫と思っていたのである……。
このままだとまずい空気になりそうだったので、アントンは話題を逸らした。
「じゃあ、猫を飼うとして、ジェイクはどんな猫が欲しいんですか?」
「え?ああ~、猫飼うなら絶対これって決めてるのがいるんだ」
「どんな猫?」
「長毛でモコモコの黒猫の雌」
長毛で、モコモコで、黒猫。且つ、雌猫。それは、つまり……。
「ジェイク……モモさんのこと……」
ジェイクは慌てて弁解する。
「モモのことは意識してねーよ?!モモは人間だからな?!確かに特徴は似てるけど、猫は猫!モモの代わりになんかしねーし!」
必死なのが余計に怪しい。ロゼッタも白い目を向ける。
「モモさんに振られたからって猫で紛らすのはやめなよ。猫ちゃんが可哀想」
「だから!ちっげーって!猫の好みとモモは似てるけど別物だから!」
猫族のジェイクが猫でどう気を紛らすつもりなのかはあまり考えたくないことだ。
「まあ、黒猫の長毛は可愛いですね。雄は嫌なのですか?」
アントンの問いに、ジェイクは希望を答える。
「どうせだったら増やしたいじゃん?雄雌つがいで飼ってもいいかもな」
だが、猫と猫族の赤ん坊は一見して見分けがつかない。髪の毛のあるなしで一応区別はつくが、猫族の子供と成猫は大きさもさほど変わらない。
「ジェイクが猫飼ったら絶対ジェイクの子供に見えちゃうよ……。尻尾で猫じゃらしとかするんでしょ?」
「猫じゃらしはわざわざおもちゃ買うより尻尾でじゃらすので十分なんだよ」
大きな猫である猫族のジェイクが、尻尾で子猫をじゃらす姿を想像する。それは、サバンナで子ライオンをじゃらす母ライオンの姿と何が違うのだろう。
「大きな親猫……」
「なんか言ったかアントン」
「いえ、微笑ましいなと」
アントンはニコッと微笑んで誤魔化した。
猫の話をしたらどうしても今すぐ猫が欲しくなってしまった三人は、早々と店じまいをし、ペットショップに向かった。可愛い子猫や子犬がケージに入って陳列されている。
「黒猫……長毛……いねえかな……」
すると、店の奥に隠れるようにして一匹の黒猫の長毛種がケージの中で震えていた。
「いたーー!!長毛黒猫!」
ジェイクたち三人がケージに張り付いて黒い子猫に見入っていると、熊族の店主が三人に近づいてきた。
「お気に入りが見つかりましたか?」
「お、おう!黒の長毛が欲しかったんだ!こいつ、いくらだ?」
「黒猫は人気がなくて、その子はなかなか売れなかったんですよ。結構大きく育ってしまったので、特別に五〇〇ファルスでいいですよ」
「五〇〇?!そんなに安くていいのか?」
「処分価格です」
「買った!」
ジェイクは即決した。
「ありがとうございます」
そのままペットショップで猫のトイレとトイレ砂、餌の皿と餌を購入し、上機嫌で三人は帰路に就いた。
「名前何にする?」
「カトリーヌにしようぜ!」
しかしここで、アントンが重要なことに気付く。
「そういえば、性別を確認していませんでしたね。雄かな、雌かな」
アントンが子猫のお尻を確認すると、小さな毛の塊が肛門の下についていた。
「雄ですね」
「お、雄―――――――?!」
「どうします?名前?」
「適当に……カールとでもつけてしまえや……」
ジェイクは意気消沈して、しぶしぶ猫の名前をカールと名付けた。
だが、数日も一緒に暮らすと、カールはジェイクによく懐き、ジェイクはすっかりメロメロになっていた。
「雄猫だけど、可愛いなこいつ」
以降、カールは三人の愛情を受けすくすくと成長し、ジェイクの店の看板猫として活躍するようになったという。