第二十八話 おかえり



2024-11-12 19:54:03
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 TP工房は翌日会議室にアントンを招き、幹部の経営陣と職人の部長を招集し、アントンに銃のカスタムについて質問した。
 なぜこの機構を思いついたのか、どうやって加工しているのか、威力は?デメリットは?先日男が購入した銃を分解した状態で提示し、事細かに質問攻めにする。
 最初の方こそ叱られるかと思ってオドオドびくびくしていたアントンだったが、経営陣の熱心に傾聴する姿勢に感銘を受け、だんだん得意になってきた。
「とまあ、趣味で研究してこんな機構を考えたんです」
「いやあ恐れ入った。ぜひうちでも取り入れたい。ありがとう」
「他にもカスタムした銃はあるんですけどね……」
「何だって?!」
 調子に乗ったアントンは型から鋳造して魔改造した凶悪な機構の銃を次々取り出して得意気になって説明した。素人の趣味で作った物なので形は歪だが、経営陣はそれを面白いと思ったようだった。
「君は本当に天才だな。ぜひうちで働いて開発部に所属してほしい」
「えっ」
 得意になっていたアントンは一瞬聞き流しそうになったが、違和感に気付いて意識を引き戻した。『うちで働いてほしい』だって……?
「どうだろう、アントン君。TP工房でその天才的な才能を発揮してみないか?」
「ご冗談でしょう?」
「我々は本気だ。そして先ほどのプレゼンを聞いて確信した。君を特別待遇で開発部にお招きするよ。契約内容はこれでどうだろう?安すぎるかな?」
 社長のポーター氏がアントンの前に提示した契約内容は破格のものだった。大金持ち間違いなしである。オフの時間も保証されている。夢のような労働契約が提示されていた。
「いや、あの、僕は、研修を受けて勉強しにきただけで、TP工房で働くとは考えていませんでした」
 それを聞いて経営陣がどっと笑った。
「そんなわけないよ。君の銃に惚れ込んで特別にお招きしたんだ。こうなる可能性を少しも考えなかったわけじゃないだろう?僕達は君の才能を欲している。逃がさないよ。もし逃げようとしたら、無事では帰れないからね」
 社長の脅しに経営陣の全員が爆笑している。アントンは青ざめた。ジェイクの言っていた嫌な予感は当たっていた。無事では帰れないかもしれない。
 アントンは迷った。TP工房の条件を飲んで悠々自適になったほうが幸せになれるのは間違いない。だが、ジェイクとロゼッタはどうする。
 アントンは迷った。TP工房もただでは帰してくれないだろう。このまま粛清されるか、監禁されるか……。TP工房の要求を呑んでしまったほうが、丸く収まるだろうか……。

 その二日後、アントンはジェイクの武器屋に帰ってきた。
「ただいま帰りました」
 お通夜のような顔をして店番をしていたジェイクは、アントンの姿を見止めるとカウンターから飛び出してアントンに抱き着いた。
「アントン?!アントン、よく無事で帰って来てくれた!ずっとお前の帰りを今か今かと待っていたんだぜ!あ、ロゼッタは学校だ。ともかくよかった!おかえりアントン!」
 アントンの背中に回した手をせわしなく動かしてアントンを撫でまわしながら抱きしめるジェイク。そこへ、アントンが衝撃的な告白をした。
「ジェイクの言う通りでした。TP工房に引き抜きにあって、TP工房の開発部に入らないと、ただでは帰さないと脅されました」
 それを聞いて、ジェイクがピタリと動きを止めた。
「条件は破格でした。老後は一生遊んで暮らせそうなほどの好待遇でした」
 ジェイクはアントンから体を引きはがして、裏切られたような目をアントンに向けた。
「おま……おま……それで、どうした?」
「ジェイクはどうすればよかったと思いますか?」
「や、や、やめてくれよ、居なくなるなんて言わないでくれ。おま、それでTP工房に行くって返事したのか?もう帰ってこないのか?やめてくれよ。お前がいなくなったら、俺……!」
 アントンは無表情でジェイクを見下ろしている。ジェイクは覚悟を決めた。もうこの際思い切って告げてしまおう。
「好きだ、アントン。俺、お前のことが好きなんだ」
 アントンはそれを聞いて目を見開いた。この反応は予想していなかった。
「お前がいなくなって初めて気づいたんだ。いや、正確には、ロゼッタに指摘された。それは恋だってな。俺、お前を愛しているんだ。だから、居なくなるなんて言わないでくれ。ずっとここで働いてくれ。お願いだ。頼む……!」
 ジェイクは泣いていた。アントンにしがみついて、さめざめと泣いている。
「そうですか……わかりました」
 アントンはジェイクの告白を静かに聞き入れ、しがみつくジェイクを引きはがし、その三ツ口に口づけした。
「安心してください。ちゃんと断ってきましたよ」
 そう言って、にこりと微笑んだ。
 ジェイクは目を見開き、その両目から滝のように涙を流した。
「アントン!脅かしやがって!!」
「フフ。ジェイクがまだ怒っていたら、TP工房に行こうと思っていました。でも、ジェイクが僕を好きだと言ってくれて、選択を間違えないでよかったです」
「おま……おま……ビックリさせやがってえ……」
 そういうとジェイクはアントンの胸でおいおいと慟哭をあげて大泣きした。安堵の涙だった。

「それで、ジェイクとアントンは恋人同士になったの?」
 夕食時、学校から帰ってきたロゼッタにこれまでの顛末を説明したアントンとジェイク。二人は幸せそうに微笑んでいた。
「びっくりしたよ、ジェイクが急にらしくないこと言うから」
「らしくないってどういうことだよ。俺は素直な良いやつだぞ」
 その幸せそうな様子に、不思議と焼き餅焼きのはずのロゼッタは嬉しそうだった。
「あたしが大人になるまでの間、貸してあげるだけだからね」
「ありがとうロゼッタ。ロゼッタはずいぶん心が広いね」
「心が広いってどういう意味?」
 ロゼッタの問いに、ジェイクは
「すっげー優しいって意味だよ」
 と説明した。ロゼッタは得意げに胸を張った。
「あたしすっげー優しいから!」
 そして三人は笑い合った。

 夕食後、ロゼッタが自室に引っ込み眠ったころ、ジェイクはアントンを呼ぶと、その唇にキスした。
「アントン……この数日間、俺我慢できなくて辛かったよ」
 そう言い、舌でアントンの口をペロペロ舐め、唇を割ると、口中に侵入して激しく舌を絡めた。
「なあ……今夜はさ、俺にやらせてくれないか」
「え……ジェイクが僕に入れるってことですか?」
「ああ、ちゃんと豚の腸かぶせるからいいだろ?」
 アントンは迷った。というのも、ジェイクのは……。大丈夫なのだろうか?
「痛かったら止めるから。お願いだ。抱かせてくれ。たまには俺にも奉仕させてくれよ」
「ジェイク……」
 ジェイクの熱っぽい潤んだ瞳に絆されて、アントンはこくりと頷いた。
「わかりました。準備してきます。今夜はとことんまで付き合いますよ」

 二人はジェイクの部屋のベッドで裸になると、誘い合うようにして互いに抱き合った。母猫のおっぱいを求める子猫のごとく、ジェイクはアントンに口づけをねだり、アントンの胸の頂にむしゃぶりつく。いつもはする側だったアントンは初めての刺激に喘ぐ。
「はあ……はあ……ジェイク……くすぐったいですよ」
 ジェイクは答えない。無言で無心にアントンの身体を楽しんでいるようだった。執拗な快感の波に、股間のアントン自身も張り裂けそうだ。
「ジェイク、もう我慢できないです。もう許してください。あそこが苦しいです……」
 するとジェイクはアントンを組み敷いて、そそり立ったアントン自身にむしゃぶりついた。
「あっ!」
 こちらも未だかつて味わったことのない快感に、腰が砕けそうになる。アントンの興奮も限界だが、ジェイクも限界まで興奮していた。
 愛しくて仕方ないアントンの、その中心を味わえる。ジェイクはその喜びにわなないていた。それはこれまで何度もジェイクの弱い部分を刺激してきた魅惑の茎。それを今度は自分が攻める側に回ったのだから、嬉しくないわけがなかった。
「あっ、出る、出ちゃいますジェイク、止めてください」
「出してくれ。飲むから」
「あっ……!……っはあ、はあっ……!……はあ……」
 アントンは達し、ジェイクはそれを飲み下した。
「すみませんジェイク、我慢できなくて……」
「気にすんな。美味かったぜ」
 そんなわけがないことはアントン自身がよく知っている。しかしジェイクはそれすら喜んでいるようだった。
「俺ももう余裕ないからさ、始めちまうぞ」
 ジェイクはそそり立つ己自身に豚の腸をかぶせ、アントンの身体を反転させて四つん這いにさせた。そして自身の手とアントンの菊門に油を垂らすと、人差し指からゆっくりと挿入した。
「あっ……」
 アントンは恥ずかしくてたまらない。誰よりも尊敬し崇拝している存在に、自分の恥ずかしい部分を弄られるというのは。しかし羞恥心が身体の芯で痺れに変わり、それを快感と錯覚するのだから、人間の身体というのはつくづく不思議なものである。
 ジェイクは菊門がほぐれたのを確認すると、二本目の指を割り込ませた。
「うっ……」
「痛いか?」
「だ、大丈夫です」
 アントンは深く息をして、呼吸を落ち着けた。ジェイクも三本目の指を入れる。
「はあ、はあ、そろそろ……ください」
 ジェイクは四本目の指も問題なく入ることを確認すると、いよいよアントンの菊門に油まみれの彼自身を突き立てた。被膜に覆われた茨の茎は、油の助けを借りてつるりと中に侵入した。
「あうっ……はあ」
 思わず喘いだのはジェイクの方だった。アントンに口で奉仕されるのとは異なった包まれる快感。生暖かい、体温。被膜越しに棘を締め付けられる感覚。何もかもが初めてで、脳が溶けそうなほど気持ちいい。
(これは……癖になっちまう)
 ジェイクが奥まで侵入すると、やがて柔らかい壁にぶつかった。
「あっ、ジェイク、そこ、です」
 ここがあの快楽の壁か。ジェイクはゆっくりと腰を動かして、そのツボを刺激する。
「あっ、……はあ、はあ、ジェイク、そこ、良いです……」
「痛くないか、アントン?」
「豚の腸のおかげか、痛くないです……」
「良かった」
 ゆっくりと刺激していたジェイクだが、だんだん余裕がなくなってきて、次第に腰のスピードが速くなる。それに合わせてアントンも快楽に酔い、身体の中心が痺れてくる。
「ああ、ジェイク、イク……!イきそうです」
「俺もイきそうだ……!奥までぶち抜くぞ、いいな?」
 言うが早いか、ジェイクはアントンの腰を掴み、奥の壁をガツンガツンと攻めた。
「あああああああああああああ!!!」
 脳天まで突き抜ける快感。稲妻に貫かれ、アントンは二度目の精を放って果てた。
「あぐっ!っくはあ、……はあっ、はあっ、はあっ」
 そしてアントンから一拍置いて、ジェイクも絶頂に達した。

 事後処理を終えて、二人はベッドで放心状態になっていた。
 生まれて初めて男を抱いたジェイク。生まれて初めて男に抱かれたアントン。発情していたというやむを得ない状況でもなかった二人は、ダイレクトに脳を支配した快楽で何も考えられなくなっていた。
「アントン……俺」
 先に沈黙を破ったのはジェイクだった。
「今まで、ずっと一人で店やってきたんだよ。お前に出会うまで。何度も職人採用しようと思って、求人出したんだけど、どいつもこいつも頭は固くて技術はお粗末で口ばっかで。全然使えない上に性格も悪くて馬も合わなくてさ。一週間と持たずに皆辞めちまったんだ」
 アントンは静かに傾聴する。
「……だから、ずっと一人ぼっちでさ。……寂しくてさ。俺には経営者の素質ねえのかなって、だいぶ悩んだんだよ」
「……ジェイク」
「お前とロゼッタが初めての仲間なんだ。こんなに長い間、仲良くやってこれた奴はいない。だから楽しくてさ。ずっとこのまま三人で仲良くやって行けたらって、思って」
「……僕もそうですよ」
「だから、だから……。……夢端草で、お前がいなくなる夢見て、俺怖くてさ。お前がいなくなったら、また一人ぼっちになっちまうって。そう考えたら……怖くてさ。寂しくてさ。悲しくてさ」
 ジェイクの大きな瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「だからお前がTP工房に一人で見学に行くって言いだした時、夢と同じだってすぐわかった。もう帰ってこない奴だ、これは、って。だからなんか必死になっちまって。どうしても行ってほしくなくて。だって、お前がTP工房に行ったら絶対引き抜きに遭うもん。お前はそれくらい優秀な職人だもん。絶対もう帰ってこないって思って……寂しくて……辛くて……絶対嫌だった」
「……でも、ほら、僕はこうして、帰って来たでしょう?」
 ジェイクはこくりと頷いた。相変わらずぐしゃぐしゃに濡れた瞳から静かに涙を流す。
「泣かないでください、ジェイク」
「もう二度と、どこにも行かないって誓ってくれ。どこかに行くときは、俺もついていく」
「お忘れですかジェイク?僕は貴方に忠誠を誓っているんです。どこにも行きませんよ。……でも、今回は、寂しい思いをさせてしまってすみませんでした。申し訳ありません。反省しています」
「ううん。いいんだそんなことは。帰って来てくれたから……。いいんだ」
 静かな時間だった。落ち着いた二人の会話だけの、静かな時間だった。
「なあ、今度から、夜は俺の部屋で寝てくれないか?添い寝して、抱きしめて寝てくれよ。寂しかったんだ、ずっと」
「寂しがり屋ですね、ジェイクは。いいですよ。毎晩、貴方と一緒にいます。これからも、ずっと」
「頼むぜ、アントン。愛してる」
 そういうと、ジェイクは寝息を立て始めた。
「愛してますよ、ジェイク。おやすみなさい」
 アントンが魔法のランプに片手をかざすと、辺りは闇に包まれた。

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