【番外】微妙な関係……?



2025-02-02 06:09:57
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9月某日、スグリパブリケーションは各編集部ごとに慰労会を開催した。
危うく会社が無くなりかけた大事件の後、改めて社員同士の絆を再確認した者たちが、それぞれ自発的に企画したものである。
Devilteen編集部も、11月号のすべてのデータを出版社に入稿した夜、慰労会を開催した。
都内の某居酒屋の大部屋を確保し、皆が着席したところで、幹事の柳春樹は、マイクを握った。
「え~と、この度は皆様お集まりいただき、ありがとうございます。え~、先日ね、とある、えへへ~、とある女子高生の件でね、コホン。皆さまには大変ご迷惑をおかけしました」
あはは…と会場に苦い笑いが流れる。
「でもね、あの一件でね、皆さまとの熱い絆というものを再確認したんですよね。編集長が冗談抜きのマジな悪魔だと判明して、みんなすごく納得しましたよね」
「どういう意味よ!」
編集長のツッコミに、今度は派手に笑いが起こる。
「え~、でも、編集長も、社長も、みんなが生きているからスグリパブリケーションです。スグリパブリケーションがあるからDevilteenを作れるんです。何よりですね~」
「早くしろよ」
茶々が入る。「もうちょっと喋らせろよ、慰労会だろ」と柳が言い返した。
「マキでって言われたんでマキで!えー、スグリパブリケーション万歳!Devilteenよ永遠なれ!村主編集長いつまでもお綺麗で!乾杯!」
「かんぱーい!!!」
カチンカチンとグラスが鳴る中で、村主編集長は一人早くも顔を赤らめていた。酔いが回ったのではない。
(いつまでもお綺麗でって…馬鹿春樹)
赤い顔が周囲にばれないように、村主編集長はビールを一気に飲み干した。
「おお~~~!!編集長いきなり一気だ!悪魔の胃袋は強靭だ!」
男性編集者が編集長を煽ると、「あたしを誰だと思ってんのよ!」と、強がる編集長。しかし、彼女は特別酒に強いわけではない。グラングラン回転する頭を、強がりだけで支えた。
「春樹!注げぇ!幹事のくせに!」
「へいへい、ただいま!」
柳は瓶ビールを両手に持って酒を注いで回る。しかし、実は一番の新人は高根撫子である。高根はこき使われてる柳をねぎらい、柳の手から瓶を取り、「私もお手伝いします」と微笑んだ。
「あ、いいのに~、飲んでてよ高根さん。一番の功労者なんだから」
「一番下っ端は私ですから」
そういうと、皆にビールを注いで回った。
一通りビールが無くなり、皆それぞれにカクテルや日本酒など好きな物を注文し始めると、ようやく柳と高根は腰を落ち着けて酒に口を付けた。
なんとなく隣に座った柳と高根は、なんとなく料理の感想を言い合ったり、なんとなく件の事件の葵ちゃんは可愛かったね、など、他愛のない話題を語らった。
ふと、柳は高根の顔をまじまじと見つめた。気のせいか、酒のせいか、今まで地味なオバサンに見えた高根のことが、妙に色っぽく感じる。……気がする。
「なんか、あれっすね、高根さんって、よく見ると美人ですね」
高根は目を丸くして固まると、苦笑しながら顔を背けた。
「何仰るんですか、急に」
「いや、眼鏡外してみてくださいよ。コンタクトにして髪下ろしたら絶対美人ですって」
「いやあだ、もう」
「冗談ばっかり」と、高根は笑ってまともに受け取らない。
「ちょっと眼鏡外してくださいよ」
柳はそっと高根から眼鏡をはずした。
「やっぱり高根さん美人だーー!!」
急に柳が叫ぶものだから、周囲の編集者たちが集まってきた。
「お!なんだ高根さん美人じゃん!」
「眼鏡外すと美人キャラ?も、萌―――!!」
会場が騒然となる。女性編集者たちは高根改造計画を立て始めるし、男性編集者は高根に首ったけだ。もちろん、皆が酔いが回ってるテンションでの話だが。
これに編集長は面白くない。
(なによ、さっきあたしのこと美人って言ったばっかで、今度は高根さんを口説いてるの?)
「春樹!ビール注ぎなさいよ!あたしに手酌で呑めって言うの?!」
編集長はわざと柳を呼びつけた。
「はいいい!!!はいはい編集長~!」
柳は慌ててビール瓶を片手に編集長の席に駆け寄った。
「あんたさ、もしかして高根さんのこと…」
編集長はそこまで言うと、軽く酔いが覚めた。自分は一体何を言っているのだろう。しかし。
「はい?みんなが煩くて聞こえませんでした。なんですって?」
柳には聞こえていなかったようだ。
「…なんでもない」
柳は高根の隣に戻ると、先ほどより熱を込めて口説き始めた。やはり気のせいではない。高根は磨けば光る女だ。
「高根さん、今度二人で飯行きませんか?コンタクトレンズ買ってさ、髪下ろしてさ、染めてさ、女子力高いブランドの服着ましょうよ絶対可愛いって」
高根は苦笑する。
「私そういうカッコ息苦しくてやだな」
「何言ってんすか。葵ちゃんを連れてきたとき、綺麗なカッコしてたじゃないっすか。いつも着てれば慣れますって」
柳がしつこく食い下がってくるので、三十路手前の現在までモテキの来なかった高根は、だんだん悪い気がしなくなってきた。ちょっと柳のことを意識してしまう。
「う~~~~ん。じゃ、一回だけね」
「よっしゃ!」
そんな二人を、なんとなく遠巻きに眺めていた編集長は、ギリギリ歯を食いしばっていた。固くて歯の欠けそうな野菜チップスをバリバリ噛み潰し、苛立ちを隠そうとする。
(何なのよ何なのよあの二人!今まで大して口も利かなかったくせに!)
考えてみたら、なぜあの時高根を葵誘拐のために派遣したのだろう。それは、地味だったからだ。人畜無害そうな奴が必要だった。
そもそもなぜ葵を誘拐しようと思ったのか。それは柳がプッシュしてきたからだ。
なぜ柳がプッシュしてきたのだろう。そうだ、柳は美人を見つけるのがうまいのだ。
柳が美人だと思った逸材は、必ず磨けば光る。けばけばしい作り物の美人に彼は興味がないのだ。だから、彼の撮影するスナップ写真は特別受けがいい。
その彼が、高根を美人だというのならば、高根は本物の美人なのだろう。そうなると、いずれ高根は、自分を超えるようなモテ女子に…。
面白くないじゃない。そんなの。
「編集長、注文ありますか」
部屋に店員が注文を取りに来たので、応対した編集者が編集長に訊いた。
「梅酒、ロックで」

二次会が終わるころには、編集長は自分では歩けないほど酔いつぶれていた。
「編集長どうしたんですか、飲み過ぎですよ」
柳は編集長に肩を貸して、店を後にした。タクシーを止め、彼女をタクシーに押し込もうとすると、編集長は、「春樹」と、彼を呼んだ。
「ひとりにしないで」
すがるような目でこちらを見てくる。柳もどうしようか困ったが、こんなに酔いつぶれた彼女が自宅に帰るかどうか不安だし……。仕方ないので同乗することにした。
繁華街から編集長の自宅までは、タクシーで20分の距離だ。
二人は数分黙っていたが、沈黙を破ったのは編集長だった。
「ねえ春樹」
「なんすか」
「あたしのこと…どう思ってる?」
そう訊いて、編集長は慌てて、「やっぱり怖い?悪魔っぽい?」と付け足した。
柳は「いや……べつに、そんなことは」と口を濁した。
「春樹さあ…あたしのこと、おっかないけど、仕事にはまじめだって言って、あたしらはチームだって、言ってくれたよね」
あの日の柳の台詞を、編集長は何度も脳内で反芻していた。
「あれ、すっごく嬉しかったんだよ」
柳は複雑だ。編集長が何を言いたいのかわからない。
「ねえ春樹」
「なんすか?」
「……」
「なんすか」
(あたしのこと本当に美人だと思う?あたしのこと好きになってくれる?あんたはどうおもってるの?)
喉まで出かかるものが、言い出せないで詰まる言葉なのか、飲み過ぎたせいの胃液なのか、わからなかった編集長は、ごくりと飲み込んだ。
(きっと嫌いだよね。さんざん虐めてきたもんね。とても聞けない。酒の力が弱すぎる)
「吐きそう」
「ええ?!やめてくださいよ!」
「ん、だいじょぶ」
(吐けない。そんな言葉出てこない。あたしもよく、わからない)

編集長の自宅前にタクシーが止まると、柳はタクシーを止めたまま、彼女を部屋に運んだ。
「大丈夫っすか?」
「うん。ありがと」
柳が帰ろうとすると、「春樹」と編集長がまた彼を呼び止めた。
「この女たらし!」
編集長はべーっと舌を出した。
「たらしが俺の仕事です!」
柳は苦笑した。

スグリパブリケーション重役と高根、柳、編集長は、菓子折りを持って倉地家に詫びに来た。櫻国の都心の悪魔族と魔族は、これによって停戦協定を結んだ。
編集長と柳と高根の三角関係の行方は、まだまだ先まで不透明なままだ。

END.

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