中間テスト最終日の放課後。テストの日は部活も無く早く帰宅することが出来る。テスト最終日ともなれば、生徒達のパラダイスである。
夕月が声をかけてきた。
「葵!よかったら今日一緒に帰らない?文具屋でノートとか買いにいきたいんだよね」
葵は喜んだ。
「あ!私も文具屋に行かないと!いいですわ、一緒に参りましょう!」
するとそこへとなりのクラスから真緋瑠が飛んできた。
「葵さん!一緒に帰りませんこと?!」
夕月は喜んで
「あ、じゃあ真緋瑠ちゃんも一緒に文具屋行かない?あたしノート欲しいんだよね」
と誘った。
「文具屋?!いいですわね!一緒に参りましょう!」
真緋瑠は一緒に帰る口実が出来たことを素直に喜んだ。
文具屋から出ると、三人は文具屋のそばのコンビニでジュースを買おうという話になった。
コンビニを普段利用しない葵は、コンビニに抵抗を感じた。
「コンビニって、私ちょっと苦手ですわ……」
「なんで?」
「だって、色んなことが沢山出来るんでしょう?私ちょっと入るのが怖くて、滅多に行きませんの」
夕月と真緋瑠は驚いてフォローした。
「え?全然怖くないよ?色んなサービスはあるけど、基本ただのお店だから。困ったときに色んなサービス利用できるってだけで、別に何もされないよ?」
「そうですわ。それに、コンビニでしか食べられないスイーツもありますのよ?」
そうはいわれても、葵は不安である。
「ジュース買うだけだし、一緒に入ろう?」
「おすすめのスイーツ、一緒に食べましょう?」
二人は嫌がる葵を勇気づけながら、近くのコンビニに入ることにした。
普段立ち寄らない店に入る、それだけで居心地の悪さを感じる。葵は田舎者と思われないか、ドキドキと緊張していた。
「ジュースとスイーツはあっちだよ」
夕月も真緋瑠もすたすたと目的の売り場へ歩いていってしまう。
葵はとりあえず入り口側から店内を観察してみることにした。
「本まで売ってるんですのね……化粧品も売ってますわ……何でも揃うんですのね。狭いのに……」
突き当たりの壁に、おびただしいジュースの棚と、アイスのケースが並んでいる。
「見たことの無い商品ばかりですわ……美味しいのかしら。ついてゆけない……」
きょろきょろと視線を巡らせると、雑誌コーナーに気になるイラストの雑誌が陳列されていた。
「あ、可愛い。魔族の女の子かしら」
ツノの生えた少女漫画風の少女が、瞳を潤ませた表紙の雑誌である。魔族をテーマにした本かと思い、可愛い絵柄にも親近感を抱いた葵は、その雑誌を手に取ってみた。
開いてみようとしたところ、なぜかページが開けない。どうも、青いビニールテープで封印されているようだった。
「立ち読み防止策なのかしら。心の狭いお店ですわね」
ぼんやりと雑誌の表紙に目を奪われていると、夕月が真っ赤な顔で葵に駆け寄り、雑誌を奪って棚に戻した。
「何見てんの葵!この雑誌、エロ本だよ!」
声を潜ませて、夕月は葵を叱咤した。
首を傾げる葵に、夕月は溜め息をつき、説明した。
「これは、スケベな男の人が……あー……スケベな理由で読む、……スケベでヤバい本なんだ。女子高生が買っちゃいけないし、お店の人も売っちゃいけないことになってんの。こんな本読もうとしたら、あの子、どスケベなんだって誤解されるよ!」
夕月の説明を聞き、葵も顔を真っ赤に染めた。あんなに可愛い女の子の絵が、スケベな漫画にされているなんて!
葵も夕月も小走りに成人向け雑誌コーナを離れた。
「あ、葵さん、夕月ちゃん!このスイーツが、バリウマなんですの!……どうしたの?」
「ん……んんん。なんでもないよ?葵にコンビニの説明しただけ」
葵はまだ顔を真っ赤にして俯いている。
そそくさとコンビニをあとにした三人だったが、葵の頭の中では、あの魔族の少女のイラストが、どうしても忘れることが出来なかった……。
その日の夜。夕食が終わり自宅のベッドで枕に顔を埋めていた葵の頭の中で、あのイラストの少女が元気に動き回り、笑顔を振りまいていた。葵は少女漫画で多少のラブシーンは読んでいる。カッコいい少年とあの少女が薔薇に包まれてキスをしている様を妄想していた葵は、居ても経っても居られず、顔を上げ、決心した。
「そうですわ。女子高生だとバレなければ、買ってもいいはずですわ!!」
そうと決めたら、思い立ったが吉日である。
女子高生とバレないような大人びたゴスファッションに身を包み、長いフード付きマントを羽織り、フードを目深にかぶって、俯きがちにあのコンビニへと向かった。
「私は、大人の女性。理由があって、買いに来ましたの」
葵は自分に向かって言い訳をし、意を決してコンビニへと入った。
「いらっしゃいませー」
コンビニの男性店員が、けだるそうにあいさつをした。このコンビニの夜勤の男性店員は、客の少ない夜のコンビニを舐めていた。
しかし、店内に入ってきたのは黒魔術でもやっていそうな危ない雰囲気の怪しい女性である。
(ついに、来たか……。俺、殺されないよな?)
青年にとって、コンビニの夜勤で唯一の不安は、コンビニ強盗か万引きである。そのどちらもやらかしそうな、ただならぬ出で立ちの女性に、青年は注意深く動向を監視した。もし怪しい動きがあったら、警察に通報できるよう、首にかけた防犯ブザーに手をかけた。
女性は雑誌コーナへ向かうと、真っ直ぐにレジに向かってきた。
(神様……!俺を今だけ救ってくれ……!)
しかし、女性がレジに置いた商品は、……青年も読むのをためらう、マニアックで鬼畜で上級者向けの成人向け雑誌だった。その雑誌を見た瞬間、青年の心に、暖かい感情が芽生えた。
(そっか……。この人、こういうのが趣味だったのか……。それが恥ずかしくて、こんな怪しい変装を……)
女性は俯き、一言も発しない。顔も暗くてよく見えないが、まだ若いようだった。
(わかるぜ、俺も、厨房の頃は、そんな気持ちだったからな)
店員は商品のバーコードを読み取り、レジの会計ボタンを押すと、
「630円でございます」
いつもより優しい接客を心がけた。
「一千三十円お預かりします。……四百円お返しします」
(まあ、あんたも、そのうち慣れて、平気で買えるようになるぜ。……頑張れよ)
青年はいつもは使用しない雑誌用の紙袋を使用し、さらにレジ袋に入れて差し出した。
女性は何も言わずに去っていった。
(俺……あんたみたいな女の子、好きだぜ……)
閉まる自動ドアに向かって、男性店員は親指を立ててみせた。
「買ってしまいましたわ……」
この雑誌の中に、どんな世界が広がっているというのか。
青いビニールテープをカッターで切り開き、ページを捲った。そこに描かれていたのは……
「きゃーーー!!!」
葵は思わず悲鳴を上げて雑誌を放り投げた。何か、気持ち悪い絵を見たような気がする。
葵の叫び声を聞き、侍女が部屋のドアを叩いた。
「姫、何事ですか?」
こんな気持ちの悪い雑誌を買ったと知られたら、何と誤解されるかわかった物ではない。
「だ、大丈夫ですわ!何でもありませんの!」
侍女がドアを開けようとしたので、葵はドアに飛びつき、ドアに鍵をかけた。
「今入ってこないで!お化けが、うん、お化けが出ましたの!」
「姫、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですわ!戦うので、ここを開けてはなりません!!」
侍女がいる気配が消えたので、葵はドアにもたれてへたり込んだ。
「危なかった……」
葵は心を落ち着け、冷静に本を読んでみようと思った。
恐る恐る雑誌を手に取り、まずは表紙の少女が活躍する話を探さなくては……。
いやらしい絵ばかり続くページをめくると、表紙と同じ絵柄のページを見つけた。表紙の少女も出てくる。
顔を真っ赤にして読み進めたが……。
「わ、私……今、見てはいけない物を見ているのかしら」
頭がぐらぐらし、目が回る。だが、少女の話の結末が気になって、ページをめくる手を止められない。
ひたすら吐き気を催すシーンが続くのに、体が火照る。
魔族の少女は酷いいじめを受けているようだった。
最終的に漫画の中の少女は、死んだ魚のような目をして打ち捨てられる結末だった。酷く後味が悪い。
それもそのはずである。その雑誌は一般男性も読むのをためらうマニア向け漫画雑誌である。
読後、葵の心は憎しみに燃えた。
「ひどい……あんまりですわ……」
夕月の言葉が蘇る。
(スケベな男がスケベな理由で読む雑誌だよ)
「人間は……我々魔族を、こんな風に虐めるのが好きなの……?」
葵の心が、闇に染まっていった。
「許せない。人間の男は、私が滅ぼさないと……!いつか絶対王位を勝ち取って、魔王になって、人間どもを、同じ目に遭わせてやりますわ……!!」
葵は漫画雑誌をベッドの下に隠すと、どうやったら王位を勝ち取ることが出来るか、朝まで考え続けていた。
夕月が声をかけてきた。
「葵!よかったら今日一緒に帰らない?文具屋でノートとか買いにいきたいんだよね」
葵は喜んだ。
「あ!私も文具屋に行かないと!いいですわ、一緒に参りましょう!」
するとそこへとなりのクラスから真緋瑠が飛んできた。
「葵さん!一緒に帰りませんこと?!」
夕月は喜んで
「あ、じゃあ真緋瑠ちゃんも一緒に文具屋行かない?あたしノート欲しいんだよね」
と誘った。
「文具屋?!いいですわね!一緒に参りましょう!」
真緋瑠は一緒に帰る口実が出来たことを素直に喜んだ。
文具屋から出ると、三人は文具屋のそばのコンビニでジュースを買おうという話になった。
コンビニを普段利用しない葵は、コンビニに抵抗を感じた。
「コンビニって、私ちょっと苦手ですわ……」
「なんで?」
「だって、色んなことが沢山出来るんでしょう?私ちょっと入るのが怖くて、滅多に行きませんの」
夕月と真緋瑠は驚いてフォローした。
「え?全然怖くないよ?色んなサービスはあるけど、基本ただのお店だから。困ったときに色んなサービス利用できるってだけで、別に何もされないよ?」
「そうですわ。それに、コンビニでしか食べられないスイーツもありますのよ?」
そうはいわれても、葵は不安である。
「ジュース買うだけだし、一緒に入ろう?」
「おすすめのスイーツ、一緒に食べましょう?」
二人は嫌がる葵を勇気づけながら、近くのコンビニに入ることにした。
普段立ち寄らない店に入る、それだけで居心地の悪さを感じる。葵は田舎者と思われないか、ドキドキと緊張していた。
「ジュースとスイーツはあっちだよ」
夕月も真緋瑠もすたすたと目的の売り場へ歩いていってしまう。
葵はとりあえず入り口側から店内を観察してみることにした。
「本まで売ってるんですのね……化粧品も売ってますわ……何でも揃うんですのね。狭いのに……」
突き当たりの壁に、おびただしいジュースの棚と、アイスのケースが並んでいる。
「見たことの無い商品ばかりですわ……美味しいのかしら。ついてゆけない……」
きょろきょろと視線を巡らせると、雑誌コーナーに気になるイラストの雑誌が陳列されていた。
「あ、可愛い。魔族の女の子かしら」
ツノの生えた少女漫画風の少女が、瞳を潤ませた表紙の雑誌である。魔族をテーマにした本かと思い、可愛い絵柄にも親近感を抱いた葵は、その雑誌を手に取ってみた。
開いてみようとしたところ、なぜかページが開けない。どうも、青いビニールテープで封印されているようだった。
「立ち読み防止策なのかしら。心の狭いお店ですわね」
ぼんやりと雑誌の表紙に目を奪われていると、夕月が真っ赤な顔で葵に駆け寄り、雑誌を奪って棚に戻した。
「何見てんの葵!この雑誌、エロ本だよ!」
声を潜ませて、夕月は葵を叱咤した。
首を傾げる葵に、夕月は溜め息をつき、説明した。
「これは、スケベな男の人が……あー……スケベな理由で読む、……スケベでヤバい本なんだ。女子高生が買っちゃいけないし、お店の人も売っちゃいけないことになってんの。こんな本読もうとしたら、あの子、どスケベなんだって誤解されるよ!」
夕月の説明を聞き、葵も顔を真っ赤に染めた。あんなに可愛い女の子の絵が、スケベな漫画にされているなんて!
葵も夕月も小走りに成人向け雑誌コーナを離れた。
「あ、葵さん、夕月ちゃん!このスイーツが、バリウマなんですの!……どうしたの?」
「ん……んんん。なんでもないよ?葵にコンビニの説明しただけ」
葵はまだ顔を真っ赤にして俯いている。
そそくさとコンビニをあとにした三人だったが、葵の頭の中では、あの魔族の少女のイラストが、どうしても忘れることが出来なかった……。
その日の夜。夕食が終わり自宅のベッドで枕に顔を埋めていた葵の頭の中で、あのイラストの少女が元気に動き回り、笑顔を振りまいていた。葵は少女漫画で多少のラブシーンは読んでいる。カッコいい少年とあの少女が薔薇に包まれてキスをしている様を妄想していた葵は、居ても経っても居られず、顔を上げ、決心した。
「そうですわ。女子高生だとバレなければ、買ってもいいはずですわ!!」
そうと決めたら、思い立ったが吉日である。
女子高生とバレないような大人びたゴスファッションに身を包み、長いフード付きマントを羽織り、フードを目深にかぶって、俯きがちにあのコンビニへと向かった。
「私は、大人の女性。理由があって、買いに来ましたの」
葵は自分に向かって言い訳をし、意を決してコンビニへと入った。
「いらっしゃいませー」
コンビニの男性店員が、けだるそうにあいさつをした。このコンビニの夜勤の男性店員は、客の少ない夜のコンビニを舐めていた。
しかし、店内に入ってきたのは黒魔術でもやっていそうな危ない雰囲気の怪しい女性である。
(ついに、来たか……。俺、殺されないよな?)
青年にとって、コンビニの夜勤で唯一の不安は、コンビニ強盗か万引きである。そのどちらもやらかしそうな、ただならぬ出で立ちの女性に、青年は注意深く動向を監視した。もし怪しい動きがあったら、警察に通報できるよう、首にかけた防犯ブザーに手をかけた。
女性は雑誌コーナへ向かうと、真っ直ぐにレジに向かってきた。
(神様……!俺を今だけ救ってくれ……!)
しかし、女性がレジに置いた商品は、……青年も読むのをためらう、マニアックで鬼畜で上級者向けの成人向け雑誌だった。その雑誌を見た瞬間、青年の心に、暖かい感情が芽生えた。
(そっか……。この人、こういうのが趣味だったのか……。それが恥ずかしくて、こんな怪しい変装を……)
女性は俯き、一言も発しない。顔も暗くてよく見えないが、まだ若いようだった。
(わかるぜ、俺も、厨房の頃は、そんな気持ちだったからな)
店員は商品のバーコードを読み取り、レジの会計ボタンを押すと、
「630円でございます」
いつもより優しい接客を心がけた。
「一千三十円お預かりします。……四百円お返しします」
(まあ、あんたも、そのうち慣れて、平気で買えるようになるぜ。……頑張れよ)
青年はいつもは使用しない雑誌用の紙袋を使用し、さらにレジ袋に入れて差し出した。
女性は何も言わずに去っていった。
(俺……あんたみたいな女の子、好きだぜ……)
閉まる自動ドアに向かって、男性店員は親指を立ててみせた。
「買ってしまいましたわ……」
この雑誌の中に、どんな世界が広がっているというのか。
青いビニールテープをカッターで切り開き、ページを捲った。そこに描かれていたのは……
「きゃーーー!!!」
葵は思わず悲鳴を上げて雑誌を放り投げた。何か、気持ち悪い絵を見たような気がする。
葵の叫び声を聞き、侍女が部屋のドアを叩いた。
「姫、何事ですか?」
こんな気持ちの悪い雑誌を買ったと知られたら、何と誤解されるかわかった物ではない。
「だ、大丈夫ですわ!何でもありませんの!」
侍女がドアを開けようとしたので、葵はドアに飛びつき、ドアに鍵をかけた。
「今入ってこないで!お化けが、うん、お化けが出ましたの!」
「姫、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですわ!戦うので、ここを開けてはなりません!!」
侍女がいる気配が消えたので、葵はドアにもたれてへたり込んだ。
「危なかった……」
葵は心を落ち着け、冷静に本を読んでみようと思った。
恐る恐る雑誌を手に取り、まずは表紙の少女が活躍する話を探さなくては……。
いやらしい絵ばかり続くページをめくると、表紙と同じ絵柄のページを見つけた。表紙の少女も出てくる。
顔を真っ赤にして読み進めたが……。
「わ、私……今、見てはいけない物を見ているのかしら」
頭がぐらぐらし、目が回る。だが、少女の話の結末が気になって、ページをめくる手を止められない。
ひたすら吐き気を催すシーンが続くのに、体が火照る。
魔族の少女は酷いいじめを受けているようだった。
最終的に漫画の中の少女は、死んだ魚のような目をして打ち捨てられる結末だった。酷く後味が悪い。
それもそのはずである。その雑誌は一般男性も読むのをためらうマニア向け漫画雑誌である。
読後、葵の心は憎しみに燃えた。
「ひどい……あんまりですわ……」
夕月の言葉が蘇る。
(スケベな男がスケベな理由で読む雑誌だよ)
「人間は……我々魔族を、こんな風に虐めるのが好きなの……?」
葵の心が、闇に染まっていった。
「許せない。人間の男は、私が滅ぼさないと……!いつか絶対王位を勝ち取って、魔王になって、人間どもを、同じ目に遭わせてやりますわ……!!」
葵は漫画雑誌をベッドの下に隠すと、どうやったら王位を勝ち取ることが出来るか、朝まで考え続けていた。